書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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2014/6/15 第5回フリーワンライ企画参加作品
ジャンル:二次創作(美女と野獣パロディ)
【お題】
君のための嘘
メリーバッドエンド(エンド指定)
決意
縋った手は
記念日前夜
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
ジャンル:二次創作(美女と野獣パロディ)
【お題】
君のための嘘
メリーバッドエンド(エンド指定)
決意
縋った手は
記念日前夜
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
*****************************
——あなたを愛しています。
目の前で静かに微笑むのは、確かにそう誓った相手だった。柔らかく見つめる眼差し、少し長い前髪をかき上げる仕草、低く穏やかな声、すべてが私の記憶の中の彼と重なる。
けれど彼は、最早私が愛した相手ではなかった。涼やかな目許は、もっと豊かで長い毛並で隠れていた。髪に触れてくる大きな手は、しなやかで長い指先の代わりに黒くて大きな鉤爪が生えていたはず。言葉は今ほど明瞭な発音ではなく、もっと音の籠った吼え声に近いものだった。
父は、人の姿を取り戻した彼を見て一目で気に入った。彼の召使たちもまた、彼が元の姿に戻ったことを心から祝った。もちろん彼自身も、野獣の姿からの脱却を心底喜んでいた。
皆が喜んでいることを知っている。そしてそれが祝福されるべきであることも理解している。
けれど。
二人だけの舞踏会の夜、私の不慣れなステップを受け止めてくれたのは、獣のふかふかの胸元だった。城への侵入者から私を守り抜いてくれたのは、今の彼より太くて逞しい腕だった。
愛した人が突然別の姿になったとして、それを受け入れられる者がどれほどいるのだろうか。美しい若者の姿になったから、それが本来の姿だから。呪いが解けてめでたしめでたしならば、彼に出逢った時、共に恋に落ちた時、私たちが乗り越えてきたあの葛藤は一体何だったのだろう。私は彼の姿を愛したわけではない。獣の姿という呪いごと、彼の存在を愛したのだ。
襲撃者の凶刃に倒れたあの時、震えながら私に縋った手は今、満ち溢れる自信と共に私を力強く抱きしめている。
——いよいよ明日だね。
彼の言葉に私は頷く。明日は私たちの結婚式。
——ええ、とても楽しみだわ。
私は笑顔で嘘を吐く。彼を傷つけないための嘘。彼は私が人の姿を取り戻したことを喜んでいないなんて、これっぽっちも気づいていない。
だから、この胸の裡の決意にも気づかない。
そっと私は彼から身を離す。
——明日は大切な日だから、今日はもう休むことにするわ。
私の言葉に、彼は疑いもせず頷いた。おやすみの言葉を交わし、私は彼に背を向ける。
その足で向かったのは厩だった。隅の藁山の中には、既に旅路で必要なものを隠してある。
行き先は分からない。けれど訪ねる相手だけは分かっている。この世界のどこかにいる、彼に呪いをかけた魔女に会いに行く。彼女に伝えたい私の望みはただ一つ。
——彼を元の獣の姿に戻してください。
魔女は呆れるだろう。彼は哀しむだろう。父も、城の誰もが、望みはしない結末。
けれど私は、獣の姿の彼と幸せになりたいのだ。
愛した人を取り戻すため、私は婚礼の準備で沸き返る城を後にした。
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