書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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先程の名残の遠雷が低く響いた。黒い雲は急速に散らばり、今日最後の残光が草原を紅に染め上げる。赤い草が揺れる様はまるで、昼間に流された幾多の血を飲み干してなお、まだ足りぬと大地が訴えるかのようだ。
不吉な想像に、慌ててレンギョウは頭を振った。
そう、戦いは終わったのだ。
たくさんの兵が犠牲となった。前線に出る際目にした物言わぬ骸たちは、どんな言葉よりも強烈な衝撃をレンギョウに与えていた。
自分の行動一つで、多くの命の行方が左右される。
頭ではとうの昔に理解していたことだった。王として国を預かる以上、そこに住む者の生命と生活を背負うのは当然のことだと。しかしその意味と己が下した決断の結果を肌で感じた時、レンギョウはそれまで抱いていた覚悟の甘さを心から恥じた。
泥濘の中には少数ながら国王軍の白い鎧があった。丸みのある鋼を着た皇帝軍の兵はさらに多い。最も目についたのは角ばった鉄で造られた自警団の装束だ。
身内と、敵と、庇護すべき者と。
命あるものとして動いている時には明確だったその違い。しかし紅の草原に沈んだ今では死の沈黙の中で全てが等しかった。仰ぐ領主が違おうと、暮らしを営む場が違おうと。皆、この島国で生まれ、育ち、死んでいった命。
ちらりと背後に意識を向ける。レンギョウを守る白銀の鎧たち。その向こうには馬を牽いたブドウが続いているはずだった。害意がないことを示すために兜を脱ぎ、赤茶の短髪を夕風になびかせている。レンギョウの要望を携えて皇都に戻った後、彼女が厳しい立場に立たされることは間違いない。しかし若葉色のその瞳には穏やかとさえ言える光が宿っていた。
無論ブドウも単身ではない。やはり下馬した十数人の兵が彼女を守るように囲んでいた。下手をするとブドウもろとも裏切者扱いされかねないことを承知で、アカネを迎えに行くことを望んだ者たちだという。それ以外の皇帝軍は先程まで待機していた場所まで戻っていた。
白銀と鋼色の鎧の間には軽装の騎兵がいる。何も言わず国王警護の最前線を任ずるところはススキらしい。レンギョウの口許に思わず苦笑が浮かぶ。
対照的に、共に前線に向かったイブキは途中で姿をくらましたままだ。
「聖王様の手並、拝ませてもらうぜ」
消え際の台詞が耳に蘇る。どうやら彼の試験はまだ終わってはいないらしい。今も何処かで成り行きを見物しているのだろうか。
一方のシオンは凄惨な戦場に入ってすぐに、馬を止めてしまった。その目線の先にはまだ若い自警団員の死体。声にならない呼びかけが洩れる。馬を下りて駆け寄り、その身体を揺さぶる。知人か、などとは問うまでもない。レンギョウは何も言わず護衛の一人にシオンを連れて本陣に戻るよう指示を出した。
今日のような戦を二度と起こさせはしない。
強くレンギョウは思う。立場は違えど、同じ国に生を享けた民がこれ以上失われるのは嫌だった。
これ以上犠牲を出さぬために、自分が今できることをする。曲がりなりにも国王である自分には、他の立場の者より打てる手は多いはずだ。手持ちの武器を活かすことを教えてくれた友と再び胸を張って会うためにも、こんな戦は早く終わらせなければならない。
本陣には幾張かの天幕が建てられている。野戦の最中であるから、造りは簡単なものだ。中央に張られた最も大きなものは司令部として用いられているが、レンギョウの休憩場所や倉庫として用意された小型のものもある。その中のどこかに、アカネはいるはずだった。
コウリが入った天幕はすぐに見つかった。本陣に詰めていた兵が示したのは司令部の裏手、正面からは目につきにくい小さなもの。成程、敵の将帥を出入りの激しい場所に置いていてはどんな事故が起こるか分からない。アカネの安全を確保するためにはこういった天幕の方が都合がいいのだろう。
そう考えたレンギョウは入り口の前で馬を下りる。周辺に兵の姿が見えないのがわずかに気になったが、軽く頭を振って悪い予感を追い払う。ここは自陣の真ん中、まして背後には国王軍の精鋭が控えている。身の危険を感じる要素など一かけらもない。加えてコウリは信頼に足る家臣だ。不吉な印象はきっと、背面から受ける残光で赤く染まった天幕の生地と長く伸びた影が齎す錯覚だろう。
「コウリ、おるか?」
声を掛けて、入り口に垂れた布を上げる。ぼんやりした薄闇の中、いくつかの黒い塊が見えた。
「コウリ?」
返事はない。一歩、レンギョウは天幕の中へと足を踏み入れた。途端に纏わりつく、粘り気のある空気。それが含む、覚えのある匂いに思わず眉を顰める。つい先程嗅いだばかりの、鉄錆にも似た独特の香り。
闇に目が慣れてきた。最初に目に入ったのは壁面の布に散った黒い飛沫。その正体を悟ることを恐れるように滑らせた視線の先、ようやく探し人の後ろ姿を見つける。亜麻色の髪を乱したまま立ちつくすコウリの右手には、未だ抜き身のままの細身の長剣。蒼白の頬を俯けて見下ろす先には、ぴくりとも動かない少年の身体があった。
咄嗟にレンギョウは後ろ手に掴んだままだった天幕の入り口を閉じた。誰もこの場を目にしないように。見られさえしなければ、ここで起こったことが取り消せるのではという祈りをもこめて。
「何故、このようなことを……」
むせ返るような血の匂いと色の中では、何もかもが現実感を欠いていた。全てが色褪せる中、レンギョウはただ呆然と側役の背中に呟きかけた。
通された天幕の中、ブドウは呆然と立ち尽くしていた。目の前には白い布で覆われた包み。ちょうど人一人分ほどの大きさのそれを、ただ見下ろすことしかできない。
既に日は昏れている。国王軍の本陣に入ってから随分待たされた。途中、いきなり陣内が慌しくなったのをじりじりしながら見守る。待機場所は相手の指定だから不用意に動くわけにもいかない。しばらくは状況も分からぬまま待つだけの時間が過ぎた。どうやら何かがあったらしい、というのは察せたが、それが何なのかまでは分からない。まさか、という黒い不安の芽を押し潰しながらじっと焦燥と戦う。
日が沈み月が天幕の屋根にかかる頃、ようやく迎えが来た。白銀の鎧に導かれて潜った隅の天幕。遅かったじゃないか。こちらの心配などどこ吹く風の、いつものやんちゃな声が出迎えてくれるものと思っていたのに。
「……どのような言葉を以っても償えぬことは承知だ。このような結果になってしまって本当にすまない」
のろのろと顔を上げると、銀髪の少年がいた。悲しげな、悔しげな表情を浮かべる見慣れない顔。神妙にうなだれる少年の言葉をきっかけに、背後に控えた部下たちから悲鳴にも似た嗚咽が洩れた。
これは何だ。生意気を言って周囲を苦笑させるでもなく、あちこち動き回って心配をかけるでもない。黙ったまま横たわるこれが、アカネだと言うのか。
起こった出来事は最早明白だった。しかしそれを受け入れることを感情が、身体が拒んでいた。
「よくも、皇子を」
ふらりと部下の一人が前に進み出た。制止することを思いつくより先に、その手に握られた懐剣の刃が目に入った。武器は先程全て預けたはず。ぼんやりとそんなことを考える。切れ切れに絞り出した呪詛の言葉が形を成したかのような、その光。
「国王——!」
「……やめろ!」
ブドウの喉から掠れた声が洩れるのと、部下の手から懐剣が弾き飛ばされたのはほとんど同時だった。刃が地に落ちる乾いた音に、白銀の鎧が自分の手槍を納める音が重なる。先程ブドウたちを先導してきた兵だ。そのまま襲撃者を拘束しようとした彼を、少年が軽く手を上げて止める。
「国王の名にかけて、これ以上約を違えるわけにはゆかぬ。せめておぬしらの身の安全だけは保証しよう」
黙って一礼して、白銀の鎧が壁際に下がる。ブドウはその姿から目が離せなかった。今目の前で成された、彼の仕事。
主を守る。少年を——国王を。かつて己がアカネに約束していながら、果たせなかった務め。
糸が切れた操り人形のように、懐剣を失った部下が崩れ落ちた。その口から洩れる慟哭。
ようやく、ブドウの頬にも熱いものが伝い落ちた。
守れなかった。
その思いだけが重く深く、心にのしかかってくる。
「国王レンギョウ、私は」
まっすぐ見上げてくる銀青の瞳を、ブドウはやっとの思いで見つめ返した。どんな罵声も受け止める覚悟をしているのだろう。確かな光を宿したその瞳に、闇を孕んだ己の顔が映っていた。
「私はあなたを許さない」
心に刻み込むように宣言する。レンギョウを憎めるように。この先も国王軍と戦えるように。
しかし麻痺した頭のどこかでは理解していた。最も怒り、憎み、許せぬ相手は、他でもない己自身だということを。
夜が明ける前に、両軍はそれぞれの都を目指して走り始めた。昨日この場で失われた兵の数は皇帝軍七千、中立地帯自警団九千、正規国王軍二十。その撤退は積み重ねた犠牲からの逃亡のようにも見えた。
もう、止められない。
同じ思いを抱く人々の群れの心中と同様、冬の空には鉛色の雲が転々と散らばっている。払暁と共に、戦の始まりが終わろうとしていた。
<予告編>
”茅”を探せ——
病床のアオイから託された任を果たすため、
”山の民”の村に足を踏み入れたアサザ。
破魔刀の眠る地で待っていたのは新たなる出会い、
そして不吉な予言。
「おぬしの兄弟、死ぬるぞ」
嗤い含みの声が語るのは失われた過去。
細い指先が示すのは混沌の未来。
その先で二人の領主の因縁の糸はより深く絡み合う。
凡てを知ることは幸いか。
『DOUBLE LORDS』次回、承章完結!
そう、戦いは終わったのだ。
たくさんの兵が犠牲となった。前線に出る際目にした物言わぬ骸たちは、どんな言葉よりも強烈な衝撃をレンギョウに与えていた。
自分の行動一つで、多くの命の行方が左右される。
頭ではとうの昔に理解していたことだった。王として国を預かる以上、そこに住む者の生命と生活を背負うのは当然のことだと。しかしその意味と己が下した決断の結果を肌で感じた時、レンギョウはそれまで抱いていた覚悟の甘さを心から恥じた。
泥濘の中には少数ながら国王軍の白い鎧があった。丸みのある鋼を着た皇帝軍の兵はさらに多い。最も目についたのは角ばった鉄で造られた自警団の装束だ。
身内と、敵と、庇護すべき者と。
命あるものとして動いている時には明確だったその違い。しかし紅の草原に沈んだ今では死の沈黙の中で全てが等しかった。仰ぐ領主が違おうと、暮らしを営む場が違おうと。皆、この島国で生まれ、育ち、死んでいった命。
ちらりと背後に意識を向ける。レンギョウを守る白銀の鎧たち。その向こうには馬を牽いたブドウが続いているはずだった。害意がないことを示すために兜を脱ぎ、赤茶の短髪を夕風になびかせている。レンギョウの要望を携えて皇都に戻った後、彼女が厳しい立場に立たされることは間違いない。しかし若葉色のその瞳には穏やかとさえ言える光が宿っていた。
無論ブドウも単身ではない。やはり下馬した十数人の兵が彼女を守るように囲んでいた。下手をするとブドウもろとも裏切者扱いされかねないことを承知で、アカネを迎えに行くことを望んだ者たちだという。それ以外の皇帝軍は先程まで待機していた場所まで戻っていた。
白銀と鋼色の鎧の間には軽装の騎兵がいる。何も言わず国王警護の最前線を任ずるところはススキらしい。レンギョウの口許に思わず苦笑が浮かぶ。
対照的に、共に前線に向かったイブキは途中で姿をくらましたままだ。
「聖王様の手並、拝ませてもらうぜ」
消え際の台詞が耳に蘇る。どうやら彼の試験はまだ終わってはいないらしい。今も何処かで成り行きを見物しているのだろうか。
一方のシオンは凄惨な戦場に入ってすぐに、馬を止めてしまった。その目線の先にはまだ若い自警団員の死体。声にならない呼びかけが洩れる。馬を下りて駆け寄り、その身体を揺さぶる。知人か、などとは問うまでもない。レンギョウは何も言わず護衛の一人にシオンを連れて本陣に戻るよう指示を出した。
今日のような戦を二度と起こさせはしない。
強くレンギョウは思う。立場は違えど、同じ国に生を享けた民がこれ以上失われるのは嫌だった。
これ以上犠牲を出さぬために、自分が今できることをする。曲がりなりにも国王である自分には、他の立場の者より打てる手は多いはずだ。手持ちの武器を活かすことを教えてくれた友と再び胸を張って会うためにも、こんな戦は早く終わらせなければならない。
本陣には幾張かの天幕が建てられている。野戦の最中であるから、造りは簡単なものだ。中央に張られた最も大きなものは司令部として用いられているが、レンギョウの休憩場所や倉庫として用意された小型のものもある。その中のどこかに、アカネはいるはずだった。
コウリが入った天幕はすぐに見つかった。本陣に詰めていた兵が示したのは司令部の裏手、正面からは目につきにくい小さなもの。成程、敵の将帥を出入りの激しい場所に置いていてはどんな事故が起こるか分からない。アカネの安全を確保するためにはこういった天幕の方が都合がいいのだろう。
そう考えたレンギョウは入り口の前で馬を下りる。周辺に兵の姿が見えないのがわずかに気になったが、軽く頭を振って悪い予感を追い払う。ここは自陣の真ん中、まして背後には国王軍の精鋭が控えている。身の危険を感じる要素など一かけらもない。加えてコウリは信頼に足る家臣だ。不吉な印象はきっと、背面から受ける残光で赤く染まった天幕の生地と長く伸びた影が齎す錯覚だろう。
「コウリ、おるか?」
声を掛けて、入り口に垂れた布を上げる。ぼんやりした薄闇の中、いくつかの黒い塊が見えた。
「コウリ?」
返事はない。一歩、レンギョウは天幕の中へと足を踏み入れた。途端に纏わりつく、粘り気のある空気。それが含む、覚えのある匂いに思わず眉を顰める。つい先程嗅いだばかりの、鉄錆にも似た独特の香り。
闇に目が慣れてきた。最初に目に入ったのは壁面の布に散った黒い飛沫。その正体を悟ることを恐れるように滑らせた視線の先、ようやく探し人の後ろ姿を見つける。亜麻色の髪を乱したまま立ちつくすコウリの右手には、未だ抜き身のままの細身の長剣。蒼白の頬を俯けて見下ろす先には、ぴくりとも動かない少年の身体があった。
咄嗟にレンギョウは後ろ手に掴んだままだった天幕の入り口を閉じた。誰もこの場を目にしないように。見られさえしなければ、ここで起こったことが取り消せるのではという祈りをもこめて。
「何故、このようなことを……」
むせ返るような血の匂いと色の中では、何もかもが現実感を欠いていた。全てが色褪せる中、レンギョウはただ呆然と側役の背中に呟きかけた。
通された天幕の中、ブドウは呆然と立ち尽くしていた。目の前には白い布で覆われた包み。ちょうど人一人分ほどの大きさのそれを、ただ見下ろすことしかできない。
既に日は昏れている。国王軍の本陣に入ってから随分待たされた。途中、いきなり陣内が慌しくなったのをじりじりしながら見守る。待機場所は相手の指定だから不用意に動くわけにもいかない。しばらくは状況も分からぬまま待つだけの時間が過ぎた。どうやら何かがあったらしい、というのは察せたが、それが何なのかまでは分からない。まさか、という黒い不安の芽を押し潰しながらじっと焦燥と戦う。
日が沈み月が天幕の屋根にかかる頃、ようやく迎えが来た。白銀の鎧に導かれて潜った隅の天幕。遅かったじゃないか。こちらの心配などどこ吹く風の、いつものやんちゃな声が出迎えてくれるものと思っていたのに。
「……どのような言葉を以っても償えぬことは承知だ。このような結果になってしまって本当にすまない」
のろのろと顔を上げると、銀髪の少年がいた。悲しげな、悔しげな表情を浮かべる見慣れない顔。神妙にうなだれる少年の言葉をきっかけに、背後に控えた部下たちから悲鳴にも似た嗚咽が洩れた。
これは何だ。生意気を言って周囲を苦笑させるでもなく、あちこち動き回って心配をかけるでもない。黙ったまま横たわるこれが、アカネだと言うのか。
起こった出来事は最早明白だった。しかしそれを受け入れることを感情が、身体が拒んでいた。
「よくも、皇子を」
ふらりと部下の一人が前に進み出た。制止することを思いつくより先に、その手に握られた懐剣の刃が目に入った。武器は先程全て預けたはず。ぼんやりとそんなことを考える。切れ切れに絞り出した呪詛の言葉が形を成したかのような、その光。
「国王——!」
「……やめろ!」
ブドウの喉から掠れた声が洩れるのと、部下の手から懐剣が弾き飛ばされたのはほとんど同時だった。刃が地に落ちる乾いた音に、白銀の鎧が自分の手槍を納める音が重なる。先程ブドウたちを先導してきた兵だ。そのまま襲撃者を拘束しようとした彼を、少年が軽く手を上げて止める。
「国王の名にかけて、これ以上約を違えるわけにはゆかぬ。せめておぬしらの身の安全だけは保証しよう」
黙って一礼して、白銀の鎧が壁際に下がる。ブドウはその姿から目が離せなかった。今目の前で成された、彼の仕事。
主を守る。少年を——国王を。かつて己がアカネに約束していながら、果たせなかった務め。
糸が切れた操り人形のように、懐剣を失った部下が崩れ落ちた。その口から洩れる慟哭。
ようやく、ブドウの頬にも熱いものが伝い落ちた。
守れなかった。
その思いだけが重く深く、心にのしかかってくる。
「国王レンギョウ、私は」
まっすぐ見上げてくる銀青の瞳を、ブドウはやっとの思いで見つめ返した。どんな罵声も受け止める覚悟をしているのだろう。確かな光を宿したその瞳に、闇を孕んだ己の顔が映っていた。
「私はあなたを許さない」
心に刻み込むように宣言する。レンギョウを憎めるように。この先も国王軍と戦えるように。
しかし麻痺した頭のどこかでは理解していた。最も怒り、憎み、許せぬ相手は、他でもない己自身だということを。
夜が明ける前に、両軍はそれぞれの都を目指して走り始めた。昨日この場で失われた兵の数は皇帝軍七千、中立地帯自警団九千、正規国王軍二十。その撤退は積み重ねた犠牲からの逃亡のようにも見えた。
もう、止められない。
同じ思いを抱く人々の群れの心中と同様、冬の空には鉛色の雲が転々と散らばっている。払暁と共に、戦の始まりが終わろうとしていた。
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<予告編>
”茅”を探せ——
病床のアオイから託された任を果たすため、
”山の民”の村に足を踏み入れたアサザ。
破魔刀の眠る地で待っていたのは新たなる出会い、
そして不吉な予言。
「おぬしの兄弟、死ぬるぞ」
嗤い含みの声が語るのは失われた過去。
細い指先が示すのは混沌の未来。
その先で二人の領主の因縁の糸はより深く絡み合う。
凡てを知ることは幸いか。
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