書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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凶報はスギの働きによって、直ちに王都へ届けられた。
中立地帯への食糧援助を口実にした王都への宣戦であれば、回避するための方策は用意していた。しかし、食糧援助を行うことによって高まった国王の人気を理由に中立地帯を伐つのは完全に想定外だった。苦い気持ちで、レンギョウは遠く北の空を見やった。その空の下、皇都にいるはずの友も今、同じように苦い焦燥を抱いているのだろうか。
「レン」
気遣わしげな声に、レンギョウは我に返った。慌てて見つめていた窓から目を離し、斜め前に座ったシオンに向き直る。
ここは王宮の会議室。皇帝軍への対策を練るための重要な会議中だ。首座にいるレンギョウが余所見をすることは許されない。
「あ、ああ。すまぬ。少しぼうっとしていたようだ。して、皇帝軍についてだが、こちらに向かっている兵の数は分かっておるのか?」
「数はおよそ五万と思われる」
答えたのはシオンの隣に座ったススキだった。
「皇帝領が持つ兵力を考えると、少ないと言ってもいい数だ。スギも、食糧や水などの物資をそう多くは用意していないと報告している。皇帝は短期決戦を望んでいるとみて間違いないだろう」
「皇帝が何を望もうと勝手です。しかし我々には戦う意思はありません。そのことはあなた方自警団に以前お伝えしたとおりです」
レンギョウの隣に控えていたコウリが言う。
「あなた方貴族に戦うつもりがなくとも、我ら中立地帯の民は既に心を決めている」
重い声で反論したのはウイキョウだ。苦しげな表情で、シオンも頷く。
「中立地帯の人々は王都に集まり始めているわ。ここなら聖王——レン、あなたが守ってくれると信じて」
机の上のシオンの手が、白くなるほどきつく握り締められている。
「それにね、自警団の本拠地に武器を持って志願してくる人もいるわ。皇帝や皇帝軍の勝手を、聖王様がお許しになるはずがない、いずれ兵を起こされるのなら力になりたい、って」
俯いたまま、シオンは低い声で言った。
「お願い、レン。もう私には中立地帯の心は止められない。あなたが思っている以上に”聖王”の名前は強い力を持っているのよ」
シオン以外の全員の視線の中、レンギョウはしばし瞑目した。
このまま無抵抗を続ければ、確実に中立地帯に住む多くの民が皇帝軍の犠牲となる。口実がレンギョウへの人望であるなら、たくさんの民が逃げ込んだこの王都もただでは済まないだろう。皇都にはまだ兵力が温存されている。いざ王都攻めとなれば順次兵士を送り込まれることとなるのは確実だ。
さすがに王都を攻められては、レンギョウとて黙っているわけにはいかない。その時には兵を募り、戦わざるを得ない。
将来的に見て、どの道戦うのであれば犠牲は少ないに越したことはない。それに今なら、”聖王”の支持者という士気の高い戦力が王都にはたくさんいる。
「……コウリ、貴族の中で使える者はどれ位おったかのう?」
「は……しかし、レンギョウ様」
珍しく驚いた顔をしている側役に、レンギョウはかすかに笑って見せた。
「このまま放置しておけば、そのうち王都も攻められよう。ならば早く態勢を整えて守りに入らねばなるまい。余は余の民を一人たりとも無駄に失いたくはない」
自警団の面々にも顔を向けて、レンギョウは言葉を続けた。
「おぬしらの力も貸してくれ。都の中におる中立地帯の民たちの世話は任せる。望む者は余の兵として登用して構わぬ」
「でもレン……いいの?」
戸惑った声はシオンのものだ。
「あんなに戦いはいやだって言ってたのに。本当にいいの?」
「……仕方あるまい。他に選択肢はないのだからのう」
がたり、と音を立ててレンギョウは椅子から立ち上がった。
「知っての通り、余はこの国の国王だ。民を守る義務がある」
席に着いたままの四人を見回して、レンギョウは宣言した。
「この戦い、相手の真の狙いは余である。余が直接出てゆけば少ない犠牲で済むであろう。犠牲を最小限にするため、此度の戦いは余の親征とする。参謀はコウリ、おぬしに任す。実働部隊は自警団、おぬしらに一任しよう。それとは別に、余直属の魔法部隊——貴族で編成した特別部隊を作る。詳細は追って指示を出す。それまでは各々の任務を果たしてもらいたい。頼んだぞ」
王都の辻ごとに兵士募集の紙が貼られたのはその一日後のことだった。都の人々はその前に群がり、深いため息をついた。
中立地帯への食糧援助を口実にした王都への宣戦であれば、回避するための方策は用意していた。しかし、食糧援助を行うことによって高まった国王の人気を理由に中立地帯を伐つのは完全に想定外だった。苦い気持ちで、レンギョウは遠く北の空を見やった。その空の下、皇都にいるはずの友も今、同じように苦い焦燥を抱いているのだろうか。
「レン」
気遣わしげな声に、レンギョウは我に返った。慌てて見つめていた窓から目を離し、斜め前に座ったシオンに向き直る。
ここは王宮の会議室。皇帝軍への対策を練るための重要な会議中だ。首座にいるレンギョウが余所見をすることは許されない。
「あ、ああ。すまぬ。少しぼうっとしていたようだ。して、皇帝軍についてだが、こちらに向かっている兵の数は分かっておるのか?」
「数はおよそ五万と思われる」
答えたのはシオンの隣に座ったススキだった。
「皇帝領が持つ兵力を考えると、少ないと言ってもいい数だ。スギも、食糧や水などの物資をそう多くは用意していないと報告している。皇帝は短期決戦を望んでいるとみて間違いないだろう」
「皇帝が何を望もうと勝手です。しかし我々には戦う意思はありません。そのことはあなた方自警団に以前お伝えしたとおりです」
レンギョウの隣に控えていたコウリが言う。
「あなた方貴族に戦うつもりがなくとも、我ら中立地帯の民は既に心を決めている」
重い声で反論したのはウイキョウだ。苦しげな表情で、シオンも頷く。
「中立地帯の人々は王都に集まり始めているわ。ここなら聖王——レン、あなたが守ってくれると信じて」
机の上のシオンの手が、白くなるほどきつく握り締められている。
「それにね、自警団の本拠地に武器を持って志願してくる人もいるわ。皇帝や皇帝軍の勝手を、聖王様がお許しになるはずがない、いずれ兵を起こされるのなら力になりたい、って」
俯いたまま、シオンは低い声で言った。
「お願い、レン。もう私には中立地帯の心は止められない。あなたが思っている以上に”聖王”の名前は強い力を持っているのよ」
シオン以外の全員の視線の中、レンギョウはしばし瞑目した。
このまま無抵抗を続ければ、確実に中立地帯に住む多くの民が皇帝軍の犠牲となる。口実がレンギョウへの人望であるなら、たくさんの民が逃げ込んだこの王都もただでは済まないだろう。皇都にはまだ兵力が温存されている。いざ王都攻めとなれば順次兵士を送り込まれることとなるのは確実だ。
さすがに王都を攻められては、レンギョウとて黙っているわけにはいかない。その時には兵を募り、戦わざるを得ない。
将来的に見て、どの道戦うのであれば犠牲は少ないに越したことはない。それに今なら、”聖王”の支持者という士気の高い戦力が王都にはたくさんいる。
「……コウリ、貴族の中で使える者はどれ位おったかのう?」
「は……しかし、レンギョウ様」
珍しく驚いた顔をしている側役に、レンギョウはかすかに笑って見せた。
「このまま放置しておけば、そのうち王都も攻められよう。ならば早く態勢を整えて守りに入らねばなるまい。余は余の民を一人たりとも無駄に失いたくはない」
自警団の面々にも顔を向けて、レンギョウは言葉を続けた。
「おぬしらの力も貸してくれ。都の中におる中立地帯の民たちの世話は任せる。望む者は余の兵として登用して構わぬ」
「でもレン……いいの?」
戸惑った声はシオンのものだ。
「あんなに戦いはいやだって言ってたのに。本当にいいの?」
「……仕方あるまい。他に選択肢はないのだからのう」
がたり、と音を立ててレンギョウは椅子から立ち上がった。
「知っての通り、余はこの国の国王だ。民を守る義務がある」
席に着いたままの四人を見回して、レンギョウは宣言した。
「この戦い、相手の真の狙いは余である。余が直接出てゆけば少ない犠牲で済むであろう。犠牲を最小限にするため、此度の戦いは余の親征とする。参謀はコウリ、おぬしに任す。実働部隊は自警団、おぬしらに一任しよう。それとは別に、余直属の魔法部隊——貴族で編成した特別部隊を作る。詳細は追って指示を出す。それまでは各々の任務を果たしてもらいたい。頼んだぞ」
王都の辻ごとに兵士募集の紙が貼られたのはその一日後のことだった。都の人々はその前に群がり、深いため息をついた。
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