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書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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「シオンが来た?」

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 今日も王都の空は冬晴れだった。冬の光特有の透き通った光に満ちた執務室で、レンギョウは書類に印を捺す手を止めた。
「何事であろうか……ともかく、通してくれ」
 大急ぎで残りの仕事を片付け、休憩用のテーブルに茶器の用意をさせている間に、シオンが姿を現した。笑ってはいるが、その顔に以前のような元気はない。
「久しぶりだのう。長を継いだ挨拶の時以来だから、もう半年も無沙汰をしておったのか。ススキやウイキョウなどは息災か?」
「ええ。みんな元気よ、今のところはね。それよりもレン、今お仕事中だったんでしょ? 邪魔しちゃってごめんね」
「気にするな。ちょうど一息入れようと思っていたところだったのだ。それよりおぬしこそ、この半年慣れない仕事ばかりで大変だったであろう。そうゆっくりもできんのだろうが、羽を伸ばしていってくれ」
「ありがと。でも、そうも言ってられないのよ」
 勧められるままに椅子に座ったシオンは、溜め息をついてレンギョウの顔を見た。
「皇帝領からね……また、食べ物を配るのをやめるっていう知らせが来たの」
「何?」
 目の前に置かれた茶や菓子を手に取ろうともせず、シオンは続ける。
「ほら……今年の夏、すごく暑かったじゃない? そのくせ雨は全然降らなかったし。で、いきなり寒くなったと思ったらあっという間に雪が降って。ただでさえ少なかった作物が、それでほとんどダメになっちゃったみたい。皇帝領に回す分だけでいっぱいいっぱいで、中立地帯へ配る余裕はなくなっちゃったらしいわ」
「しかし、理由があるからと言って納得できることでもあるまい」
 レンギョウの言葉にシオンは肩をすくめた。
「ま、ね。こっちは生活がかかってるわけだし、困るわよ。ただ、これはスギからの連絡で分かったことで、皇帝領側の正式な発表はまだなのよね。ひょっとすると、正式発表の前に取りやめになるかもしれないけれど……」
「残念ながら、それはありません」
 口を挟んだ声はコウリのものだ。執務室の扉をくぐり、レンギョウに向けて会釈する。
「久しぶりに中立地帯からの来客があったと聞いてきたのですが……やはり、その話でしたか」
 立ち上がりかけたシオンを制して、レンギョウは訝しげに目を細めた。
「やはり……とはどういうことだ?」
「はい。今しがた、皇帝領から書状が届きました。これを持ってきた使者が、同じようなことを言っていましたので」
「ふむ。で、その書状は?」
「こちらに」
 受け取った書状の封を開け、レンギョウはざっと目を通した。
「これから来年の秋まで、中立地帯への援助は見送るとのことだ」
「やっぱり……」
 シオンが天井を仰ぐ。レンギョウはしばらく考えた後、コウリに目を向けた。
「これを持ってきた者はまだおるのか?」
「はい」
「では、余の返事を持ち帰るよう申しつけよ。コウリ、おぬしは皇帝宛に書状を作れ。国王領とて余裕があるわけではないが、王家と貴族に使う予算を少々削れば一年くらいは中立地帯を援助できよう。他意はないゆえ了承を求むと」
「しかしレンギョウ様……」
 レンギョウはちらりとシオンに目を向けた。
「余は頼ってくれた者をみすみす見殺しにはできぬ。それに、元々王家と貴族には予算を割きすぎなのだ。数が少ないのだから、それにあわせて予算も少なくすれば良いではないか」
「……レンギョウ様がそうおっしゃるのなら」
 しぶしぶといった面持ちで、コウリが頷く。心配顔のシオンがおずおずと口を開いた。
「レン、助けてくれるのはすごくありがたいけど、ホントに大丈夫なの?」
「うむ。貴族たちは余が説得する。皇帝にしても、振る袖がないと言っているのはあちらなのだからのう。自分の領土で手がふさがっておる時に揉め事を起こすこともあるまい」
「……レン、もう一つ報告しなきゃならないことがあるの」
 珍しく言いずらそうに言葉を選ぶシオンに、レンギョウとコウリは顔を見合わせる。
「スギからの報告には続きがあってね……実は、中立地帯に援助できないのには不作以外にも理由があるのよ」
「不作以外の理由というと……まさか」
 息を呑むコウリにシオンは頷いた。
「皇帝が将帥を指名したそうよ。任命されたのは第三皇子のアカネ、アサザの弟。中立地帯へ手が回らないのは、援助より軍の強化を優先したからだって、スギの手紙には書いてあった。それに今の皇都は警備がすごく厳重で、連絡するのも大変なの。スギの連絡も途切れがちだしね」
 コウリがレンギョウに向き直った。
「レンギョウ様、皇帝が将帥を置くなど戦を視野に入れているとしか考えられません。皇都がそのような状況であるのなら、こちらもそれなりの準備をしなければ。皇帝への返事は今しばらく、お待ちになられますよう」
「……いや」
 しばらく考え込んでいたレンギョウは、かぶりを振って立ち上がった。
「恐らく皇帝が進めている軍の強化は、中立地帯での反乱への対策であろう。援助を打ち切れば今度こそ反乱が起きる、そう踏んでのことだと思うが」
 そのままレンギョウは部屋を横切り、壁にかかった地図へ歩み寄る。
「ならば反乱が起こる前に食糧を配り、心配の芽を摘み取ってしまえばよかろう。準備だの対策だのと時間を費やしている間に事が起こっては元も子もない。すぐに手を打ち、食糧を中立地帯へと運ぶのだ」
「しかしレンギョウ様! 皇帝は戦の口実を作っているとしか思えませぬ!!」
 コウリの剣幕に、シオンがびくりと身をすくませる。レンギョウは地図を見上げたままだ。
「……仮にそうだとしても、余はこの国の王なのだ」
 レンギョウはゆっくりと振り返った。細い肩越しに、島国の地図が見える。
「実権こそ皇帝に譲っても、この国の王が余である限り、民の暮らしは余が守らねばならぬのだ。飢える民には王室の蔵を開け、防ぐことのできる反乱は防ぐ。今年の異常な天気は誰もが知るところ。あちらが特別ゆえに援助を打ち切ったのだとしたら、こちらも特別ゆえに急遽援助したのだと言えばよい。そうではないか?」
「レンギョウ様……」
「レン……」
 治める国を背負った王の顔のまま、レンギョウは二人の顔を見据えた。
「向こう一年間の中立地帯への援助は、国王レンギョウがすべての責を負って行う。良いな、コウリ」


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