書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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「何とか逃げ切れたようだな」
その空を見上げて、アサザは大きく息を吐いた。
「そうだな」
すっとレンギョウがアサザの隣に並ぶ。二人とも馬に乗っていた。勿論、アサザを乗せているのはキキョウだ。
「割と上手くいったわよね。途中ちょっと危なかったけど」
シオンの声はキキョウの上からした。昨夜のレンギョウと同じように、アサザの前に乗っている。
「ま、な。あんたがいなかったらヤバかったかもしれない。ありがとな」
つい先程の逃亡劇を思い返しながらアサザが言った。
地下牢を抜けて、見張り場に置かれていた剣を取り戻すまでは順調だった。馬を奪い返すため、通路を移動しているところを見つかった。咄嗟にシオンを盾にして、すぐ近くにあった厨房に飛び込んだ。朝食の用意が一段落してそれぞれ休んでいた人々(おばちゃんばっかだ、とアサザは思った)をこれまた近くにあった片手鍋を振り回しながら突破し、飛び出した裏口のすぐ傍にあった厩舎でキキョウと合流を果たした。再会を喜ぶ暇もなくキキョウとその隣にいた馬を外に出し、シオンの指示する最短路をレンギョウの煙幕で隠れながらようやくここまで駆けてきたのだ。今ごろ自警団本拠地は大騒ぎだろう。
「いーえ。あたしはあたしのしたいことをしただけよ」
軽く肩を竦めてシオンは視線を前方に向けた。地下牢にいたときより口数が少なくなっているのは、彼女なりに本拠地を心配しているからだろう。
追っ手があるわけでもなく、特に急ぐ道でも目的があるわけでもない。アサザは手綱を緩めた。そうしてふと、横手に目線を流す。
「ところでレン。お前がこんなに巧く馬に乗るとは思わなかったな」
「そうか?」
同じく速度を落としたレンギョウがアサザに顔を向ける。
「ああ。あんなドタバタの中で魔法を使いながら俺……てーかキキョウについて来ただろ。大したもんだぜ」
「そうか。馬を操るなど久方振りだったから、ちと不安だったのだが」
「そうだったのか? 全然そうは見えなかったぜ」
少し照れたように目元を緩めてレンギョウは前を向いた。
「……かたじけない」
三人の前には緩やかな丘があった。なだらかな斜面に丈の高い草が柔らかに揺れている。緑の丘をゆっくりと登り切り、その後ろに隠されていた景色が目に入った瞬間、三人は息を呑んだ。
「——海だ」
誰かが呟いた。一瞬の空白の後、二騎の馬は海へ向かって駆け出していた。あっという間に丘の緑は後ろへと流れ去り、視界は砂浜の白を経て海と空の蒼に埋めつくされる。波打ち際ぎりぎりで手綱を引いて、三人は馬から飛び降りた。
「すごーい! こんなに綺麗な海、初めて見た」
両手に掬い上げた海水にも負けないほど瞳をきらめかせたシオンが言う。海面の眩しさに目を細めたアサザも頷いた。
「ああ。天気も良いし、波も穏やかだ。本当に今日は、いい海だな」
シオンはもう聞いていない。結んだ水を振りまいて、子供のように波と遊び始める。その周りに一瞬、虹色が踊った。
飛んできた飛沫を苦笑しながら避けたアサザは、波際に立ちつくすレンギョウを振り返った。
「どうしたんだ、レン? 随分大人しいな」
「いや、なに……これが、海というものなのかと思ってな」
瞳に驚きを浮かべ、レンギョウが言う。
「……大きいな」
その言葉の中に驚き以外の要素を感じて、アサザも素直に頷いた。確かに、今日の海には人の心を動かす何かがある。
「ねー、見てー!!」
いつの間にか随分遠くまで行っていたシオンが戻ってきた。
「今水の中で見つけたの。これ、レンの目の色にそっくりじゃない?」
示されたものを見て、アサザは感心八割呆れ二割の笑いをこぼした。
「本当だ。よくこんなもん見つけたな」
「へへー。あたしってこういうのには目ざといんだよね」
びしょ濡れの裾を気にする様子もなく、シオンはレンギョウに拳を差し出した。
「はい、あげる」
手の中に落とし込まれた小さな蒼いガラス石をきゅっと握って、レンギョウはシオンに目を向けた。
「余に? いいのか?」
「うん。記念になるでしょ?」
「……記念?」
怪訝な顔のレンギョウにシオンは頷いた。
「海。見たの初めてなんでしょ?」
沈黙するレンギョウからアサザに視線を流して、シオンは小さく笑った。
「海を見たことがない貴族と、絵に描いたような戦士。こんなに変な取り合わせもなかなか見れるもんじゃないわよね」
アサザが軽く目を見開いた。
「シオン、お前……」
「あら、バレてないとでも思ってた? レンはあんなにばんばん魔法使ってるし、アサザは剣と馬にこだわってたのに?」
悪戯っぽく二人の顔を覗き込んで、シオンは続けた。
「それに二人とも、王都や皇都では『それなりの立場』があるんでしょ? あたしの目だって節穴じゃないわ。何となくそういうことって分かるもの。さすがにどういう経緯でこんなに変な二人組が結成されたかまでは分からないけどね」
もう一度笑って、シオンは首を傾げた。
「そういえばあなたたち、ごはんは食べた?」
「……いや」
「あ、やっぱり。じゃあこれあげるよ」
言いながらシオンは懐から布包みを取り出してアサザに渡した。
「これは?」
「お饅頭よ。さっき通った台所から持ってきたの」
包みを開けると、確かに小さな饅頭が一つ入っていた。押し込められていたせいだろう、少しつぶれている。
「ごはんが出せなかったこと、悪く思わないでね。最近は自警団も貧乏だから、予定外のお客さんにはごはんを出せないのよ」
シオンは小さく肩を竦めた。
「情けないけど、これが中立地帯の現状。あたしたちでさえこんななんだから、普通に暮らしてる普通の中立地帯の人はもっと苦しいでしょうね」
今度はアサザが沈黙する番だった。ためらいがちにレンギョウが口を開く。
「なぜそんな……食べるものにも困るほど生活が苦しくなったのだ?」
「さあ。ほんとのところはあたしにも分からない。よく皇帝が悪いとは言われるけどね。一応中立地帯は皇帝が面倒を見るって事に決まってるらしいけど、皇帝領と比べたらやっぱり差はあるわね」
軽く目を見張って、レンギョウはアサザを見上げた。
「本当か?」
「……ああ」
苦しげにアサザが答える。
「そうか……それも私は……知らなかった」
俯くレンギョウにシオンは頷いた。
「さっきレンはあたしに、なんで逃がしてくれるのかって訊いたよね?」
シオンはアサザが持ったままの包みを示した。
「それが答え。あなたたち、皇都と王都の関係者に中立地帯の現状を知ってもらいたかったの。こういうことはすごく大事だとあたしは思うから」
それだけ言うとシオンは満足したのか、軽く伸びをして空を見上げた。
「あ、もうあんなに太陽が昇ってる。そろそろ帰らなきゃ、貴重な昼ごはんを食いっぱぐれちゃうわね」
シオンは二人にくるりと背を向けて、指笛を吹いた。砂浜で大人しくしていた本拠地の馬が、耳をぴんと立ててやって来る。
「じゃ、あたしはここで。あんまり遅くなるとススキに怒られちゃうしね」
身軽に馬に飛び乗ったシオンはしかし、数歩馬を歩かせたところで止まった。
「……あたしが今更何をしても、何を言っても、何も変わらないのかもしれないけど。でも最後に一つだけ、言っておくわ。これからこの国は変わっていく。それがいいことなのかどうかは分からないけれど……これも、憶えていてね」
振り返らずにそれだけを言って、シオンは馬の腹を蹴った。高い嘶きを上げて馬が走り出す。見る間にシオンの姿は遠ざかり、緑の丘に紛れて見えなくなった。
「——俺たちも、行こうか」
短くはない沈黙の後、アサザはキキョウを呼んだ。波打ち際で遊んでいたキキョウが近寄ってくると、レンギョウは逆らわずにその背に乗った。続いて飛び乗ったアサザが、ふと思いついてシオンからもらった包みを開けた。中の饅頭を二つに割り、一つをレンギョウに渡す。
「食っとけよ。王都まではかなりかかるだろうからな」
「……うむ」
素直にレンギョウは頷いた。それを確認したかのように低く嘶いて、キキョウは走り出した。
シオンが本拠地に帰ると、そこは大騒ぎになっていた。
「ただいまー」
騒ぎの元凶のわざとらしいほど呑気な声に、本拠地の人々は一瞬静まり——一斉に溜息を吐いた。
「あ、帰ってきたよ」
「まったく人騒がせな……」
口々に飛ぶ文句に笑って応えながらシオンの足は正確に食堂へ向かって進んでいた。しかしその順調な歩みは目的地からかなり離れたところで止まってしまった。
「……ススキ」
壁に凭れたススキがシオンに友好的とは言いがたい視線を向けていた。
「シオン、お前は今がどういう時期だか解っているのか」
「うん」
他の者なら気圧されてしまいそうなススキの冷たい声に、シオンはあっさりと答えを返した。二人の視線が交錯する。
「……解っているのなら、いい」
目を逸らしたのはススキの方だった。
「怪我がないようで、何よりだ」
「ありがと。ところで今日の昼ごはんは何かな」
「さあな」
すたすたと去っていくススキの背を不満げに見送ってから、シオンは再び食堂へ歩き出した。
「解ってるわよ。だからごはんが気になるのよ。『腹が減っては戦は出来ない』って言うでしょうに」
ぶつぶつ言いながら歩いていたシオンの顔が、見慣れた食堂のドアを見てぱっと輝いた。
「そうよ。明日は王都へ行くんだもの。いっぱい食べて元気をつけなくちゃ」
その空を見上げて、アサザは大きく息を吐いた。
「そうだな」
すっとレンギョウがアサザの隣に並ぶ。二人とも馬に乗っていた。勿論、アサザを乗せているのはキキョウだ。
「割と上手くいったわよね。途中ちょっと危なかったけど」
シオンの声はキキョウの上からした。昨夜のレンギョウと同じように、アサザの前に乗っている。
「ま、な。あんたがいなかったらヤバかったかもしれない。ありがとな」
つい先程の逃亡劇を思い返しながらアサザが言った。
地下牢を抜けて、見張り場に置かれていた剣を取り戻すまでは順調だった。馬を奪い返すため、通路を移動しているところを見つかった。咄嗟にシオンを盾にして、すぐ近くにあった厨房に飛び込んだ。朝食の用意が一段落してそれぞれ休んでいた人々(おばちゃんばっかだ、とアサザは思った)をこれまた近くにあった片手鍋を振り回しながら突破し、飛び出した裏口のすぐ傍にあった厩舎でキキョウと合流を果たした。再会を喜ぶ暇もなくキキョウとその隣にいた馬を外に出し、シオンの指示する最短路をレンギョウの煙幕で隠れながらようやくここまで駆けてきたのだ。今ごろ自警団本拠地は大騒ぎだろう。
「いーえ。あたしはあたしのしたいことをしただけよ」
軽く肩を竦めてシオンは視線を前方に向けた。地下牢にいたときより口数が少なくなっているのは、彼女なりに本拠地を心配しているからだろう。
追っ手があるわけでもなく、特に急ぐ道でも目的があるわけでもない。アサザは手綱を緩めた。そうしてふと、横手に目線を流す。
「ところでレン。お前がこんなに巧く馬に乗るとは思わなかったな」
「そうか?」
同じく速度を落としたレンギョウがアサザに顔を向ける。
「ああ。あんなドタバタの中で魔法を使いながら俺……てーかキキョウについて来ただろ。大したもんだぜ」
「そうか。馬を操るなど久方振りだったから、ちと不安だったのだが」
「そうだったのか? 全然そうは見えなかったぜ」
少し照れたように目元を緩めてレンギョウは前を向いた。
「……かたじけない」
三人の前には緩やかな丘があった。なだらかな斜面に丈の高い草が柔らかに揺れている。緑の丘をゆっくりと登り切り、その後ろに隠されていた景色が目に入った瞬間、三人は息を呑んだ。
「——海だ」
誰かが呟いた。一瞬の空白の後、二騎の馬は海へ向かって駆け出していた。あっという間に丘の緑は後ろへと流れ去り、視界は砂浜の白を経て海と空の蒼に埋めつくされる。波打ち際ぎりぎりで手綱を引いて、三人は馬から飛び降りた。
「すごーい! こんなに綺麗な海、初めて見た」
両手に掬い上げた海水にも負けないほど瞳をきらめかせたシオンが言う。海面の眩しさに目を細めたアサザも頷いた。
「ああ。天気も良いし、波も穏やかだ。本当に今日は、いい海だな」
シオンはもう聞いていない。結んだ水を振りまいて、子供のように波と遊び始める。その周りに一瞬、虹色が踊った。
飛んできた飛沫を苦笑しながら避けたアサザは、波際に立ちつくすレンギョウを振り返った。
「どうしたんだ、レン? 随分大人しいな」
「いや、なに……これが、海というものなのかと思ってな」
瞳に驚きを浮かべ、レンギョウが言う。
「……大きいな」
その言葉の中に驚き以外の要素を感じて、アサザも素直に頷いた。確かに、今日の海には人の心を動かす何かがある。
「ねー、見てー!!」
いつの間にか随分遠くまで行っていたシオンが戻ってきた。
「今水の中で見つけたの。これ、レンの目の色にそっくりじゃない?」
示されたものを見て、アサザは感心八割呆れ二割の笑いをこぼした。
「本当だ。よくこんなもん見つけたな」
「へへー。あたしってこういうのには目ざといんだよね」
びしょ濡れの裾を気にする様子もなく、シオンはレンギョウに拳を差し出した。
「はい、あげる」
手の中に落とし込まれた小さな蒼いガラス石をきゅっと握って、レンギョウはシオンに目を向けた。
「余に? いいのか?」
「うん。記念になるでしょ?」
「……記念?」
怪訝な顔のレンギョウにシオンは頷いた。
「海。見たの初めてなんでしょ?」
沈黙するレンギョウからアサザに視線を流して、シオンは小さく笑った。
「海を見たことがない貴族と、絵に描いたような戦士。こんなに変な取り合わせもなかなか見れるもんじゃないわよね」
アサザが軽く目を見開いた。
「シオン、お前……」
「あら、バレてないとでも思ってた? レンはあんなにばんばん魔法使ってるし、アサザは剣と馬にこだわってたのに?」
悪戯っぽく二人の顔を覗き込んで、シオンは続けた。
「それに二人とも、王都や皇都では『それなりの立場』があるんでしょ? あたしの目だって節穴じゃないわ。何となくそういうことって分かるもの。さすがにどういう経緯でこんなに変な二人組が結成されたかまでは分からないけどね」
もう一度笑って、シオンは首を傾げた。
「そういえばあなたたち、ごはんは食べた?」
「……いや」
「あ、やっぱり。じゃあこれあげるよ」
言いながらシオンは懐から布包みを取り出してアサザに渡した。
「これは?」
「お饅頭よ。さっき通った台所から持ってきたの」
包みを開けると、確かに小さな饅頭が一つ入っていた。押し込められていたせいだろう、少しつぶれている。
「ごはんが出せなかったこと、悪く思わないでね。最近は自警団も貧乏だから、予定外のお客さんにはごはんを出せないのよ」
シオンは小さく肩を竦めた。
「情けないけど、これが中立地帯の現状。あたしたちでさえこんななんだから、普通に暮らしてる普通の中立地帯の人はもっと苦しいでしょうね」
今度はアサザが沈黙する番だった。ためらいがちにレンギョウが口を開く。
「なぜそんな……食べるものにも困るほど生活が苦しくなったのだ?」
「さあ。ほんとのところはあたしにも分からない。よく皇帝が悪いとは言われるけどね。一応中立地帯は皇帝が面倒を見るって事に決まってるらしいけど、皇帝領と比べたらやっぱり差はあるわね」
軽く目を見張って、レンギョウはアサザを見上げた。
「本当か?」
「……ああ」
苦しげにアサザが答える。
「そうか……それも私は……知らなかった」
俯くレンギョウにシオンは頷いた。
「さっきレンはあたしに、なんで逃がしてくれるのかって訊いたよね?」
シオンはアサザが持ったままの包みを示した。
「それが答え。あなたたち、皇都と王都の関係者に中立地帯の現状を知ってもらいたかったの。こういうことはすごく大事だとあたしは思うから」
それだけ言うとシオンは満足したのか、軽く伸びをして空を見上げた。
「あ、もうあんなに太陽が昇ってる。そろそろ帰らなきゃ、貴重な昼ごはんを食いっぱぐれちゃうわね」
シオンは二人にくるりと背を向けて、指笛を吹いた。砂浜で大人しくしていた本拠地の馬が、耳をぴんと立ててやって来る。
「じゃ、あたしはここで。あんまり遅くなるとススキに怒られちゃうしね」
身軽に馬に飛び乗ったシオンはしかし、数歩馬を歩かせたところで止まった。
「……あたしが今更何をしても、何を言っても、何も変わらないのかもしれないけど。でも最後に一つだけ、言っておくわ。これからこの国は変わっていく。それがいいことなのかどうかは分からないけれど……これも、憶えていてね」
振り返らずにそれだけを言って、シオンは馬の腹を蹴った。高い嘶きを上げて馬が走り出す。見る間にシオンの姿は遠ざかり、緑の丘に紛れて見えなくなった。
「——俺たちも、行こうか」
短くはない沈黙の後、アサザはキキョウを呼んだ。波打ち際で遊んでいたキキョウが近寄ってくると、レンギョウは逆らわずにその背に乗った。続いて飛び乗ったアサザが、ふと思いついてシオンからもらった包みを開けた。中の饅頭を二つに割り、一つをレンギョウに渡す。
「食っとけよ。王都まではかなりかかるだろうからな」
「……うむ」
素直にレンギョウは頷いた。それを確認したかのように低く嘶いて、キキョウは走り出した。
シオンが本拠地に帰ると、そこは大騒ぎになっていた。
「ただいまー」
騒ぎの元凶のわざとらしいほど呑気な声に、本拠地の人々は一瞬静まり——一斉に溜息を吐いた。
「あ、帰ってきたよ」
「まったく人騒がせな……」
口々に飛ぶ文句に笑って応えながらシオンの足は正確に食堂へ向かって進んでいた。しかしその順調な歩みは目的地からかなり離れたところで止まってしまった。
「……ススキ」
壁に凭れたススキがシオンに友好的とは言いがたい視線を向けていた。
「シオン、お前は今がどういう時期だか解っているのか」
「うん」
他の者なら気圧されてしまいそうなススキの冷たい声に、シオンはあっさりと答えを返した。二人の視線が交錯する。
「……解っているのなら、いい」
目を逸らしたのはススキの方だった。
「怪我がないようで、何よりだ」
「ありがと。ところで今日の昼ごはんは何かな」
「さあな」
すたすたと去っていくススキの背を不満げに見送ってから、シオンは再び食堂へ歩き出した。
「解ってるわよ。だからごはんが気になるのよ。『腹が減っては戦は出来ない』って言うでしょうに」
ぶつぶつ言いながら歩いていたシオンの顔が、見慣れた食堂のドアを見てぱっと輝いた。
「そうよ。明日は王都へ行くんだもの。いっぱい食べて元気をつけなくちゃ」
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