書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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「や、元気?」
「……元気だよ、一応な」
格子に凭れたままのアサザの答えに、シオンはくつくつと笑った。
「こんなおもてなししかできなくてごめんなさい。お連れさんは大丈夫?」
「大事ない」
そっけないレンギョウの言葉に気を悪くした様子もなく、シオンは格子の外にしゃがみこんだ。
「ね、あたしシオンっていうの。あなたたちは? どこから来たの?」
「おいおい、見張りはちょっとだけって言ってなかったか?」
「あの人は朝ごはんを食べに行っちゃったわ。あたしに鍵を預けてね」
にっこり笑ってシオンはぐっと格子に顔を近づけた。
「それよりも名前! 名前を教えてよー」
「なんでそんなにこだわるんだ!?」
「あたしがあなたたちの調書をつけるからよ。書類って一番最初には名前を書くものでしょう?」
得意げにシオンは持っていた紙片を示した。その上部には確かに『調書』の文字がある。
「……まあいいけどな」
明らかにシオンの手書きと分かるその文字から目を逸らし、アサザは土の壁に背を預けた。
「俺はアサザ、あっちはレンだ」
「黒頭ででかいのがアサザ、銀色で可愛いのがレンだね。ふむふむ」
真剣なのかふざけているのか分からない顔でシオンが紙にペンを走らせる。
「ところであんた、こんなに俺たちのそばに来てもいいのか? ここじゃそれなりの立場にあるように見えたが」
アサザの言葉にシオンは軽い驚きを見せた。
「何でそう思うの?」
「そりゃ……上の見張りだって何だかんだであんたの頼みを聞いてたし、さっきの偉そうな奴——ススキにもあんたは顔が利くんだろ? あいつはどう見ても下っ端じゃなかったし、あんたはあいつを呼び捨てにしてたしな」
「なるほど、だからあたしも下っ端じゃないってわけね」
ぽん、とシオンは両手を叩いた。
「うん、半分あたりで半分はずれ。あたしとススキは長の拾い子なの」
「……そうか」
顔を曇らせたアサザにレンギョウが訝しげな目を向ける。
「拾い子……?」
「実の子供じゃないってことよ。あたしの村はあたしが生まれてすぐに盗賊の襲撃だか村同士の抗争だかでなくなっちゃったの。運良く生き残ったあたしを混乱を収めにやって来た長が引き取ってくれたわけ。中立地帯は貧しいから、こんなことは珍しいことじゃないわ」
淡々とシオンは語る。
「だからここの人はみんなあたしを長の娘として育ててくれたの。ま、あたしにも一応お役目はあるわけだけど……だから、ススキとあたしは兄妹みたいなものね。同じように長を親代わりに大きくなったんだから。でもススキはあたしとは違って実力であの地位を手に入れたのよ。兵士としての働きでね」
ふっ、と声に溜息が混じる。
「ほんと、あたしとは大違い。あたしは、ただの飾りなんだから」
「飾り、か——」
レンギョウが低く呟く。その表情から先程よりとげが消えているように見えるのは気のせいだろうか。レンギョウの変化に気づいたのか、シオンはわざと声を明るくした。
「そ。普段どれだけわがままを聞いてくれても、肝心なところではあたしはいつも仲間はずれなの。今もそう。ススキたちは長の部屋であなたたちをどうするか話し合ってるけど、あたしは呼ばれてもいないわ」
アサザが背中を壁から離した。
「ふーん……じゃ、今は主だった奴らはみんな会議中ってことか」
「そうね。それ以外の人たちも朝ごはんの真っ最中よ」
アサザの目がすっと細まった。
「——危ないとは思わないのか?」
「何が?」
シオンがきょとんと問い返す。立てた膝に肘を乗せて、アサザが身を乗り出す。レンギョウもアサザに目を向けた。
「あんたに何か起こった時助けに来れそうな奴がいない今のような状況で、あんたが俺たちにこんなに接近すること……そしてそれを俺たちに話しちまったことが、さ」
不敵な笑みを口元に浮かべたアサザに、シオンはああ、と頷いた。
「そんなこと。大丈夫よ、ここはそう簡単には破れないわ。破れたとしても一応あたしだって自警団の一員よ? 護身術くらい知ってるわ」
「そうかい? んじゃあ——」
アサザがレンギョウを顧みる。その視線を受けたレンギョウの両手の間には、既に白い光が浮かんでいた。その光がふっと見えなくなるのと同時にごうっ、と風が吹いた。同時にまるで鋭い刃で断ち切られたかのように、牢の格子がばらばらになって吹き飛ぶ。不思議なほど、音はしなかった。
「なっ……何!?」
舞い上がる土埃に思わずシオンは顔をかばった。牢の中の様子は見えない。シオンがその場を一歩も動けないうちに、その身体がぐいっと後方に引かれた。
「牢、破れちまったぜ。どうする?」
ぴたり、とシオンの首筋に小刀をつけたアサザが言う。レンギョウも埃を潜り抜けて牢の外に出てきた。
「うーん、困ったわね」
意外にシオンは落ち着いていた。
「まさか本当に牢破りをするとは思わなかったわ。あなたが言うとおり、あたしは少し軽率だったようね」
そう言って、わずかに視線を落とす。喉元の小刀を示して、シオンは小さく肩を竦めた。
「こんなものをこんな近くで向けられたんじゃ何もできないわ。あなたたちこそどうするの?」
「そりゃ逃げるさ。別にあんたを困らせるためにこんなことをしたんじゃない」
「ふふ、それもそうね。なら、あたしを連れていって」
「……は?」
アサザのみならず、レンギョウまでも目を丸くした。その拍子にアサザの力が緩んだのか、シオンはアサザに振り返って笑った。
「あなたたちは剣や馬がどこにあるか知らないでしょう? あたしが案内するわ」
「なぜ」
シオンはレンギョウに目を向けた。
「あなたたちのことが気に入っちゃったの。逃がしてあげるから代わりにあたしも連れていってよ」
「……余らがおぬしの要求に応える義理はなかろう」
「そう? じゃ、あたし大声出すわよ?」
ぐっと言葉を詰まらせたレンギョウにアサザは呆れと苦笑いが半々に混じった視線を向ける。
「ま、いいだろ。俺たちがここに詳しくないのは確かだしな」
「しかし……」
「大丈夫だよ。このお嬢さんだって危険は承知だろうさ。俺たちとしても、道案内兼人質になるわけだからそう不利になるわけでもない」
「……なんだかひどい言われようね」
シオンのぼやきをよそにしばらく考え込んでいたレンギョウは、やがてこくりと頷いた。
「——アサザがそう言うのなら。任せる」
「ああ」
にっと笑ってアサザは階段の上を見上げた。土埃は既に収まり、入り口からは松明より数段明るい光が射し込んでいる。
「じゃ、行くぞ。脱出だ」
「……元気だよ、一応な」
格子に凭れたままのアサザの答えに、シオンはくつくつと笑った。
「こんなおもてなししかできなくてごめんなさい。お連れさんは大丈夫?」
「大事ない」
そっけないレンギョウの言葉に気を悪くした様子もなく、シオンは格子の外にしゃがみこんだ。
「ね、あたしシオンっていうの。あなたたちは? どこから来たの?」
「おいおい、見張りはちょっとだけって言ってなかったか?」
「あの人は朝ごはんを食べに行っちゃったわ。あたしに鍵を預けてね」
にっこり笑ってシオンはぐっと格子に顔を近づけた。
「それよりも名前! 名前を教えてよー」
「なんでそんなにこだわるんだ!?」
「あたしがあなたたちの調書をつけるからよ。書類って一番最初には名前を書くものでしょう?」
得意げにシオンは持っていた紙片を示した。その上部には確かに『調書』の文字がある。
「……まあいいけどな」
明らかにシオンの手書きと分かるその文字から目を逸らし、アサザは土の壁に背を預けた。
「俺はアサザ、あっちはレンだ」
「黒頭ででかいのがアサザ、銀色で可愛いのがレンだね。ふむふむ」
真剣なのかふざけているのか分からない顔でシオンが紙にペンを走らせる。
「ところであんた、こんなに俺たちのそばに来てもいいのか? ここじゃそれなりの立場にあるように見えたが」
アサザの言葉にシオンは軽い驚きを見せた。
「何でそう思うの?」
「そりゃ……上の見張りだって何だかんだであんたの頼みを聞いてたし、さっきの偉そうな奴——ススキにもあんたは顔が利くんだろ? あいつはどう見ても下っ端じゃなかったし、あんたはあいつを呼び捨てにしてたしな」
「なるほど、だからあたしも下っ端じゃないってわけね」
ぽん、とシオンは両手を叩いた。
「うん、半分あたりで半分はずれ。あたしとススキは長の拾い子なの」
「……そうか」
顔を曇らせたアサザにレンギョウが訝しげな目を向ける。
「拾い子……?」
「実の子供じゃないってことよ。あたしの村はあたしが生まれてすぐに盗賊の襲撃だか村同士の抗争だかでなくなっちゃったの。運良く生き残ったあたしを混乱を収めにやって来た長が引き取ってくれたわけ。中立地帯は貧しいから、こんなことは珍しいことじゃないわ」
淡々とシオンは語る。
「だからここの人はみんなあたしを長の娘として育ててくれたの。ま、あたしにも一応お役目はあるわけだけど……だから、ススキとあたしは兄妹みたいなものね。同じように長を親代わりに大きくなったんだから。でもススキはあたしとは違って実力であの地位を手に入れたのよ。兵士としての働きでね」
ふっ、と声に溜息が混じる。
「ほんと、あたしとは大違い。あたしは、ただの飾りなんだから」
「飾り、か——」
レンギョウが低く呟く。その表情から先程よりとげが消えているように見えるのは気のせいだろうか。レンギョウの変化に気づいたのか、シオンはわざと声を明るくした。
「そ。普段どれだけわがままを聞いてくれても、肝心なところではあたしはいつも仲間はずれなの。今もそう。ススキたちは長の部屋であなたたちをどうするか話し合ってるけど、あたしは呼ばれてもいないわ」
アサザが背中を壁から離した。
「ふーん……じゃ、今は主だった奴らはみんな会議中ってことか」
「そうね。それ以外の人たちも朝ごはんの真っ最中よ」
アサザの目がすっと細まった。
「——危ないとは思わないのか?」
「何が?」
シオンがきょとんと問い返す。立てた膝に肘を乗せて、アサザが身を乗り出す。レンギョウもアサザに目を向けた。
「あんたに何か起こった時助けに来れそうな奴がいない今のような状況で、あんたが俺たちにこんなに接近すること……そしてそれを俺たちに話しちまったことが、さ」
不敵な笑みを口元に浮かべたアサザに、シオンはああ、と頷いた。
「そんなこと。大丈夫よ、ここはそう簡単には破れないわ。破れたとしても一応あたしだって自警団の一員よ? 護身術くらい知ってるわ」
「そうかい? んじゃあ——」
アサザがレンギョウを顧みる。その視線を受けたレンギョウの両手の間には、既に白い光が浮かんでいた。その光がふっと見えなくなるのと同時にごうっ、と風が吹いた。同時にまるで鋭い刃で断ち切られたかのように、牢の格子がばらばらになって吹き飛ぶ。不思議なほど、音はしなかった。
「なっ……何!?」
舞い上がる土埃に思わずシオンは顔をかばった。牢の中の様子は見えない。シオンがその場を一歩も動けないうちに、その身体がぐいっと後方に引かれた。
「牢、破れちまったぜ。どうする?」
ぴたり、とシオンの首筋に小刀をつけたアサザが言う。レンギョウも埃を潜り抜けて牢の外に出てきた。
「うーん、困ったわね」
意外にシオンは落ち着いていた。
「まさか本当に牢破りをするとは思わなかったわ。あなたが言うとおり、あたしは少し軽率だったようね」
そう言って、わずかに視線を落とす。喉元の小刀を示して、シオンは小さく肩を竦めた。
「こんなものをこんな近くで向けられたんじゃ何もできないわ。あなたたちこそどうするの?」
「そりゃ逃げるさ。別にあんたを困らせるためにこんなことをしたんじゃない」
「ふふ、それもそうね。なら、あたしを連れていって」
「……は?」
アサザのみならず、レンギョウまでも目を丸くした。その拍子にアサザの力が緩んだのか、シオンはアサザに振り返って笑った。
「あなたたちは剣や馬がどこにあるか知らないでしょう? あたしが案内するわ」
「なぜ」
シオンはレンギョウに目を向けた。
「あなたたちのことが気に入っちゃったの。逃がしてあげるから代わりにあたしも連れていってよ」
「……余らがおぬしの要求に応える義理はなかろう」
「そう? じゃ、あたし大声出すわよ?」
ぐっと言葉を詰まらせたレンギョウにアサザは呆れと苦笑いが半々に混じった視線を向ける。
「ま、いいだろ。俺たちがここに詳しくないのは確かだしな」
「しかし……」
「大丈夫だよ。このお嬢さんだって危険は承知だろうさ。俺たちとしても、道案内兼人質になるわけだからそう不利になるわけでもない」
「……なんだかひどい言われようね」
シオンのぼやきをよそにしばらく考え込んでいたレンギョウは、やがてこくりと頷いた。
「——アサザがそう言うのなら。任せる」
「ああ」
にっと笑ってアサザは階段の上を見上げた。土埃は既に収まり、入り口からは松明より数段明るい光が射し込んでいる。
「じゃ、行くぞ。脱出だ」
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