書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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その月光と同じ色の長い髪を肩に流した少年が一人、小さな湖のほとりで金色の空を見上げていた。しかしその実、彼の目には空の色など映ってはいなかった。
この時間、この木々に囲まれた湖に散歩に来るのが少年の日課だった。水の上に突き出た岩の一つに座り、溜め息を吐く。実年齢より幼く見えるその少女のような顔が曇っているのは斜陽の影のせいだけではない。
少年は今、決断を迫られていた。自分はもちろん、多くの人を巻き込みかねないその問題を持て余した少年の気分は最近塞ぎがちになっていた。それを心配する周りの者たちの気遣いすら鬱陶しく感じ始めていた少年が逃げる場所はここしかなかった。
「偉大なる御先祖様……貴方ならどうなさるのでしょうか」
少年が低く呟いた時だった。
「うわ……まいったな、変なところに出ちまったぞ」
突然の声と蹄の音に少年は立ち上がり、振り返った。木々の上に広がる空は早くも藍色に染まり、爪のような三日月が細い銀の光を投げかけている。
「おぬし……何者だ?」
少年は鋭い眼差しを逞しい栗毛の馬とそれに跨った黒髪の男に向けた。小柄な少年の威厳に満ちた立ち姿に気圧されたのか、男はばつが悪そうに馬を下りた。
「俺は……旅の者だ。お嬢さん、あんたこそ何者だ? 何だかこの世のものじゃないみたいに見えるぜ」
「残念だが、余は人間だ。ついでに言うと女でもない」
わずかに苦笑を浮かべた少年をまじまじと見つめ、男は納得したようだった。
「それは悪かった。ところでここはどこだ? 実は道に迷ってしまったんだ」
今度は少年が男を見つめる番だった。くすり、と笑った少年がからかうように男を見上げる。
「おぬし、迷子であったか。余とそんなに歳も変わらぬだろうに」
「仕方ないだろ、初めての土地なんだから」
憮然とした男を面白そうに眺めながら少年が少し呆れたように言う。
「しかしいくら不慣れな土地とはいえ王宮に迷い込む者も珍しい。よほどの阿呆か傑物か」
「……!? じゃあここは王宮なのか?」
「そうだ。王宮の最奥、王族とそれに近しいものしか入れぬ奥庭だ」
少年の言葉を聞くと同時に男は小躍りして馬の首を抱き寄せた。
「すげぇや、キキョウ!! お前に任せてよかった!! とりあえず目的地到着だ」
主人の喜色に嬉しげな馬の声が応える。それを見ていた少年は首を傾げた。
「王宮が目的地、だと?」
「ああそうだ!! ようやく辿り着いたぜ!!」
少年の目が男の腰に差された長剣を捉える。訝しげな表情に気づいたのか、男がわずかに視線を逸らす。
「その剣、馬……おぬし、戦士の者ではないか?」
「ん……ま、そんなところだ」
頬を掻いてそっぽを向く男を少年は不思議そうに見た。
「戦士が王宮に何の用だ?」
「……興味本位だ。聖王に会いに来たんだ」
「せいおう?」
少年は考え込んだ。少年の知る限り、この王宮の中にそのような呼び名で呼ばれる者はいなかった。
「聖王とは——」
「そっ、それよりも名前!! 名前をまだ聞いてなかったな!! なんていうんだ?」
少年の言葉を遮って男が馬を示した。
「こいつはキキョウ。荒っぽいところもあるが頭はいいんだ。足もものすごく速い。俺はアサザだ」
「余は——レンギョウだ」
アサザの勢いに押されて少年——レンギョウが答える。すかさずアサザが右手を差し出した。
「よろしくな、レンギョウ!!」
「う……うむ」
ためらいながらレンギョウは差し出された手を握った。レンギョウのものよりふたまわりは大きいその手は一度強くその細い手を握ってすぐに引っ込んだ。
「にしても、レンギョウって何か言いにくいな。レンって呼んでもいいか?」
アサザの言葉にレンギョウは戸惑いの表情を浮かべた。しかしすぐにくすぐったげな微笑に変わる。
「そのように呼ばれるのは初めてだ。何だか、嬉しい」
それを聞いたアサザが意外そうな顔をする。
「レンは貴族だろ? 貴族はあだ名とかで呼び合ったりしないのか?」
「そういうわけではないのだろうが……余は特別らしいからな」
「ふーん」
寂しげに笑うレンギョウにそれ以上は聞かず、アサザは月を見上げた。ふと、一つの考えが心に浮かぶ。
「なあ、レンは王宮の外に出たことがあるか?」
「いや、ないが……」
「見てみたくはないか? この街の壁の向こう側」
水面に映った月を見ていたレンギョウが顔を上げる。自嘲するような笑みを宿した瞳が徐々に期待で輝きだす。
「連れて行って……くれるのか? 外へ」
かすかに震えたその声にアサザは大きく頷いた。
「今、そう言おうと思ってたところだ。答えは……聞くまでもなさそうだな。早くキキョウに乗れ」
「うむ!!」
間もなく、二つの影を乗せたキキョウが木々の中に駆け込んでいった。
この時間、この木々に囲まれた湖に散歩に来るのが少年の日課だった。水の上に突き出た岩の一つに座り、溜め息を吐く。実年齢より幼く見えるその少女のような顔が曇っているのは斜陽の影のせいだけではない。
少年は今、決断を迫られていた。自分はもちろん、多くの人を巻き込みかねないその問題を持て余した少年の気分は最近塞ぎがちになっていた。それを心配する周りの者たちの気遣いすら鬱陶しく感じ始めていた少年が逃げる場所はここしかなかった。
「偉大なる御先祖様……貴方ならどうなさるのでしょうか」
少年が低く呟いた時だった。
「うわ……まいったな、変なところに出ちまったぞ」
突然の声と蹄の音に少年は立ち上がり、振り返った。木々の上に広がる空は早くも藍色に染まり、爪のような三日月が細い銀の光を投げかけている。
「おぬし……何者だ?」
少年は鋭い眼差しを逞しい栗毛の馬とそれに跨った黒髪の男に向けた。小柄な少年の威厳に満ちた立ち姿に気圧されたのか、男はばつが悪そうに馬を下りた。
「俺は……旅の者だ。お嬢さん、あんたこそ何者だ? 何だかこの世のものじゃないみたいに見えるぜ」
「残念だが、余は人間だ。ついでに言うと女でもない」
わずかに苦笑を浮かべた少年をまじまじと見つめ、男は納得したようだった。
「それは悪かった。ところでここはどこだ? 実は道に迷ってしまったんだ」
今度は少年が男を見つめる番だった。くすり、と笑った少年がからかうように男を見上げる。
「おぬし、迷子であったか。余とそんなに歳も変わらぬだろうに」
「仕方ないだろ、初めての土地なんだから」
憮然とした男を面白そうに眺めながら少年が少し呆れたように言う。
「しかしいくら不慣れな土地とはいえ王宮に迷い込む者も珍しい。よほどの阿呆か傑物か」
「……!? じゃあここは王宮なのか?」
「そうだ。王宮の最奥、王族とそれに近しいものしか入れぬ奥庭だ」
少年の言葉を聞くと同時に男は小躍りして馬の首を抱き寄せた。
「すげぇや、キキョウ!! お前に任せてよかった!! とりあえず目的地到着だ」
主人の喜色に嬉しげな馬の声が応える。それを見ていた少年は首を傾げた。
「王宮が目的地、だと?」
「ああそうだ!! ようやく辿り着いたぜ!!」
少年の目が男の腰に差された長剣を捉える。訝しげな表情に気づいたのか、男がわずかに視線を逸らす。
「その剣、馬……おぬし、戦士の者ではないか?」
「ん……ま、そんなところだ」
頬を掻いてそっぽを向く男を少年は不思議そうに見た。
「戦士が王宮に何の用だ?」
「……興味本位だ。聖王に会いに来たんだ」
「せいおう?」
少年は考え込んだ。少年の知る限り、この王宮の中にそのような呼び名で呼ばれる者はいなかった。
「聖王とは——」
「そっ、それよりも名前!! 名前をまだ聞いてなかったな!! なんていうんだ?」
少年の言葉を遮って男が馬を示した。
「こいつはキキョウ。荒っぽいところもあるが頭はいいんだ。足もものすごく速い。俺はアサザだ」
「余は——レンギョウだ」
アサザの勢いに押されて少年——レンギョウが答える。すかさずアサザが右手を差し出した。
「よろしくな、レンギョウ!!」
「う……うむ」
ためらいながらレンギョウは差し出された手を握った。レンギョウのものよりふたまわりは大きいその手は一度強くその細い手を握ってすぐに引っ込んだ。
「にしても、レンギョウって何か言いにくいな。レンって呼んでもいいか?」
アサザの言葉にレンギョウは戸惑いの表情を浮かべた。しかしすぐにくすぐったげな微笑に変わる。
「そのように呼ばれるのは初めてだ。何だか、嬉しい」
それを聞いたアサザが意外そうな顔をする。
「レンは貴族だろ? 貴族はあだ名とかで呼び合ったりしないのか?」
「そういうわけではないのだろうが……余は特別らしいからな」
「ふーん」
寂しげに笑うレンギョウにそれ以上は聞かず、アサザは月を見上げた。ふと、一つの考えが心に浮かぶ。
「なあ、レンは王宮の外に出たことがあるか?」
「いや、ないが……」
「見てみたくはないか? この街の壁の向こう側」
水面に映った月を見ていたレンギョウが顔を上げる。自嘲するような笑みを宿した瞳が徐々に期待で輝きだす。
「連れて行って……くれるのか? 外へ」
かすかに震えたその声にアサザは大きく頷いた。
「今、そう言おうと思ってたところだ。答えは……聞くまでもなさそうだな。早くキキョウに乗れ」
「うむ!!」
間もなく、二つの影を乗せたキキョウが木々の中に駆け込んでいった。
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