書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
***************************************************************
薄闇の中、少年は目を覚ました。
部屋の外で何か物音がした気がする。それだけで少年の眠気はどこかへ吹き飛んでしまった。
カーテンの隙間から洩れる街灯の光がぼんやりと部屋の中を照らしている。ベッドの枕元には大きな赤い靴下が吊るされていた。
今宵はクリスマス・イブ。
世界中を駆け回っているサンタクロースは今、どこにいるのだろう?
部屋の外の廊下が小さくきしんだ。少年の心臓が跳ね上がる。
間違いない。今、ここにサンタクロースは来ようとしている。
そう考えると、眠れるものではなかった。
寒いクリスマス前夜に、毎年プレゼントを届けてくれるサンタクロースが少年は大好きだった。起きて待っていたかったけれども、少年の母親はいつもサンタの仕事の邪魔になるからと言い聞かせては少年を寝かしつけた。だから毎年靴下の中にお礼の手紙を入れることで我慢していたのだ。
だけど今日は違う。会って、直接お礼が言える。仕事の邪魔をするつもりはないし、そんなことをするほど子供じゃない。
少年は寝返りを打って扉に背を向けた。それに……と付け加える。
起きて待っていたわけじゃない。目が覚めちゃったんだ。
少年が一人頷いた時、また廊下の床が鳴った。今度は部屋のすぐ外だ。
どきどきする胸を押さえながら少年は待った。
ドアノブに手がかけられるわずかなきしみ。続いてかちゃり、と金具の触れ合う音が響く。廊下の薄い明かりが部屋に射し込み、闇に慣れた少年の瞼をぎゅっと閉じさせた。
ドアを開けた人物はゆっくりと部屋の中に入ってきた。布団にくるまり丸くなっている少年に、影が落ちる。少年の顔を覗き込む気配。少年はただ、眠ったふりを必死で続けた。
視線はすぐに少年から外された。枕元の靴下を手に取り、中を探っているのが伝わる。手紙が抜き取られる音を耳にした時、少年は寝返りを打ち、目を開いた。
最初に目に入ったのは、薄明かりの中に立つ長身の影だった。予想に反してすらりとしたその体つきに少年は面食らった。
影がふと少年を顧みる。かすかに浮かんでいた微笑が少年の瞳にぶつかって、困惑に取って代わる。その顔に、少年は確かに見覚えがあった。
目を見開いて、少年は硬直した。見覚えがあるどころの騒ぎではない。影の顔を少年は息をするのも忘れて見つめつづけた。そこにあるのは、さっき一緒に夕飯を食べたばかりの父親の顔だった。ばつが悪そうに目を逸らしながら、右手に手紙を、左手に赤いリボンのかかった箱を持ったまま立ちつくしている。
数瞬の沈黙。意を決したように父親が少年に目を向けた。その口が開かれるより早く、少年は父親の手から手紙を奪い取った。止める間も与えず、びりびりと破り捨てる。床に散らばった紙片を呆然と眺める父親に少年は背を向けた。頭からすっぽりと布団をかぶり、丸くなる。今は泣き顔を誰にも見られたくなかった。
小さな溜息が落ちた。枕元にそっと何かが置かれる。少年は邪険にそれを払いのけた。がたん、と床と箱が悲鳴を上げた。
それ以上は何も言わず、父親はそっと少年の布団に手を乗せて出て行った。静かにドアが閉められる。
息が苦しくなって少年は布団を這い出した。涙でぐちゃぐちゃになった顔が気持ち悪かった。
しかしそれ以上に気持ち悪かったのは、胸の中に溜まったどろどろした塊だった。
声を殺して泣くことは辛いと、少年は初めて知った。
PR
この記事にコメントする
最新記事
(11/28)
(03/19)
(03/19)
(09/20)
(08/23)
カテゴリー
最新コメント
ブログ内検索
Staff Only