書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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強く明るく輝いているもの、ほのかな暖かさをたたえているもの。満天の星空に似たそれは、この望遠鏡でだけ見ることのできる人の心が持つ望みの光。ひとつとして同じもののないそれは、あるいは本物の星以上に人を導くしるべなのかもしれません。
色とりどりの光を放つ望みの中から、私はただひとつ、最も輝きの強いものを探します。輝きの強さは望みの強さ。私たちを世界で一番必要としている人——今年のお客様を求めて、しばし望遠鏡をさまよわせます。
「お疲れさま、トーン」
後ろからかけられた声に振り返ると、家へと続く天窓から見慣れた顔がのぞいていました。
「今年のお客さんは見つかった?」
「いいえ、残念ながらまだです」
「そう。ま、気長に探そうよ。寒かったよね?ココアを作ったんだけど、一緒に飲まない?」
気の抜けるような笑顔を浮かべた主人は湯気の立つマグカップを両手に持って屋根に登ってきました。降り積もった雪に今にも足を取られてしまいそうで、危なっかしいことこの上ありません。はらはらしている私の心中などまったくお構いなしに、主人は何とか無事に私の隣までやって来て雪の上に座り込むことに成功しました。マグカップを脇に置いた手が、私の背中に触れます。
「すっかり冷えちゃったようだね。お客さん探し、交代しようか」
「いいえ、まだ大丈夫です。ニコルこそ、風邪など引かないよう暖かくしてくださいね」
主人の手の暖かさを感じながら、私は差し出されたカップを引き寄せました。一口飲み込むと、じんとしたぬくもりが体中に広がっていきます。
「にしても、毎年お客さん探しには苦労するよね。クリスマスはもう明日だっていうのに」
言いながら、主人は望遠鏡を手に取ってレンズを覗き込みました。
「やあ、いつ見てもきれいだねぇ」
のんきな主人の言葉に適当に相槌を入れながら、私は本物の星空を見上げました。冬の澄んだ空気の中、星はただ静かにまたたいています。
「……あ」
それまであちこちを見回していた望遠鏡が、ぴたりと止まりました。
「トーン、見つけたよ。今年のお客さん」
「え、本当ですか」
差し出された望遠鏡に目を当てると、確かにひときわ強く輝く光が見えました。純白に輝く一等星のような光には、望みが叶うよう一途な祈りさえもがこめられているように見えます。確かに、この方なら今年のお客様として申し分ないでしょう。
「では早速準備をしましょうか。ニコルも衣装を着て、身だしなみを整えてくださいね」
「うん、分かってる。橇の用意はまかせたよ」
言って、主人は立ち上がりました。私もマグカップを取って天窓へと向かいます。
「ニコル、入り口近くの雪は滑りやすくなってますから気をつけてくださいね」
「ありがとうトーン。でも大丈夫だよ」
一足先に家に入った私に笑いかけて、主人は天窓をくぐろうと身をかがめました。その瞬間、部屋の空気に暖められて解けた雪に足を取られて、主人は見事なしりもちをついてしまいました。ああ、だから言ったのに。
「どこが大丈夫なんですか、まったく。立てますか?」
「うん、何とか……うわぁっ!」
立ち上がりかけたのもつかの間、再び足を滑らせた主人は私の体につかまる暇もなく体のバランスを崩して転んでしまいました。しかも今度は勢いあまって屋根から落ちてしまったようです。天井の上で派手な音が響き、窓の下に一直線。さすがの私もあわてて窓から顔を出しました。
「大丈夫ですか、ニコル?」
「ううん、何とかね」
屋根の下の深い雪に大きな穴を作った主人は、案外元気に起き上がってきました。しかしその格好は雪まみれになってしまって、なんとも情けない姿になっています。
「……衣装に着替える前に、熱いお風呂に入った方がよさそうですね」
言葉にため息が混じるのは仕方のないことでしょう。ああもう、本当に手間のかかる人なのだから。
「ごめんね、トーン」
遠くから主人の申し訳なさそうな声が聞こえてきます。
「謝るより先に、早く雪を払って暖炉にあたってください」
そう、明日は年に一度の大事な仕事の日。主人に最良のコンディションで仕事をしてもらうためにも、こんなところで風邪など引いている場合ではありません。私はできる限り早く主人をお風呂に入れるため、急いでバスルームへと向かいました。
色とりどりの光を放つ望みの中から、私はただひとつ、最も輝きの強いものを探します。輝きの強さは望みの強さ。私たちを世界で一番必要としている人——今年のお客様を求めて、しばし望遠鏡をさまよわせます。
「お疲れさま、トーン」
後ろからかけられた声に振り返ると、家へと続く天窓から見慣れた顔がのぞいていました。
「今年のお客さんは見つかった?」
「いいえ、残念ながらまだです」
「そう。ま、気長に探そうよ。寒かったよね?ココアを作ったんだけど、一緒に飲まない?」
気の抜けるような笑顔を浮かべた主人は湯気の立つマグカップを両手に持って屋根に登ってきました。降り積もった雪に今にも足を取られてしまいそうで、危なっかしいことこの上ありません。はらはらしている私の心中などまったくお構いなしに、主人は何とか無事に私の隣までやって来て雪の上に座り込むことに成功しました。マグカップを脇に置いた手が、私の背中に触れます。
「すっかり冷えちゃったようだね。お客さん探し、交代しようか」
「いいえ、まだ大丈夫です。ニコルこそ、風邪など引かないよう暖かくしてくださいね」
主人の手の暖かさを感じながら、私は差し出されたカップを引き寄せました。一口飲み込むと、じんとしたぬくもりが体中に広がっていきます。
「にしても、毎年お客さん探しには苦労するよね。クリスマスはもう明日だっていうのに」
言いながら、主人は望遠鏡を手に取ってレンズを覗き込みました。
「やあ、いつ見てもきれいだねぇ」
のんきな主人の言葉に適当に相槌を入れながら、私は本物の星空を見上げました。冬の澄んだ空気の中、星はただ静かにまたたいています。
「……あ」
それまであちこちを見回していた望遠鏡が、ぴたりと止まりました。
「トーン、見つけたよ。今年のお客さん」
「え、本当ですか」
差し出された望遠鏡に目を当てると、確かにひときわ強く輝く光が見えました。純白に輝く一等星のような光には、望みが叶うよう一途な祈りさえもがこめられているように見えます。確かに、この方なら今年のお客様として申し分ないでしょう。
「では早速準備をしましょうか。ニコルも衣装を着て、身だしなみを整えてくださいね」
「うん、分かってる。橇の用意はまかせたよ」
言って、主人は立ち上がりました。私もマグカップを取って天窓へと向かいます。
「ニコル、入り口近くの雪は滑りやすくなってますから気をつけてくださいね」
「ありがとうトーン。でも大丈夫だよ」
一足先に家に入った私に笑いかけて、主人は天窓をくぐろうと身をかがめました。その瞬間、部屋の空気に暖められて解けた雪に足を取られて、主人は見事なしりもちをついてしまいました。ああ、だから言ったのに。
「どこが大丈夫なんですか、まったく。立てますか?」
「うん、何とか……うわぁっ!」
立ち上がりかけたのもつかの間、再び足を滑らせた主人は私の体につかまる暇もなく体のバランスを崩して転んでしまいました。しかも今度は勢いあまって屋根から落ちてしまったようです。天井の上で派手な音が響き、窓の下に一直線。さすがの私もあわてて窓から顔を出しました。
「大丈夫ですか、ニコル?」
「ううん、何とかね」
屋根の下の深い雪に大きな穴を作った主人は、案外元気に起き上がってきました。しかしその格好は雪まみれになってしまって、なんとも情けない姿になっています。
「……衣装に着替える前に、熱いお風呂に入った方がよさそうですね」
言葉にため息が混じるのは仕方のないことでしょう。ああもう、本当に手間のかかる人なのだから。
「ごめんね、トーン」
遠くから主人の申し訳なさそうな声が聞こえてきます。
「謝るより先に、早く雪を払って暖炉にあたってください」
そう、明日は年に一度の大事な仕事の日。主人に最良のコンディションで仕事をしてもらうためにも、こんなところで風邪など引いている場合ではありません。私はできる限り早く主人をお風呂に入れるため、急いでバスルームへと向かいました。
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