書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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ふとんの上で揃えた膝をぎゅっと握って、大地は苦しそうな目でニコルたちの後ろにあるドアを見た。
「それから、小花は部屋から出てこないんだ。オレが呼んでも、おかあさんが呼んでも、返事もしない」
「そうだったんだ。だから本物のサンタの僕たちに、妹さんにプレゼントを持っていってって頼んだんだね」
「うん」
大地はちらりとニコルに目をやって、うつむいてしまった。
「だってオレは……サンタなんていないって、あいつに言っちゃったんだ。本物のサンタの前でこんなこと言うのも変だけどさ、だから、オレよりサンタを信じてるあいつのところに行ってくれよ」
「そうだねぇ……でも、やっぱり僕の今年のお客さんは、君で間違いないようだから」
にっこり笑って、ニコルは大地の頭にぽん、と手を置いた。
「僕の望遠鏡に見える人はね、この世界で一番僕のプレゼントを必要としている人なんだよ。僕のプレゼントは、ちょっと変わってるからね」
「どういうことだよ?」
微笑だけを残して、ニコルは橇へと向いてしまった。
「大地さん、あなたの望みは何ですか?」
代わりに進み出たトーンが問い掛ける。
「望み? そんなの、わかんないよ」
「そうですか?」
橇に積み込んだ大きな白い袋を探っているニコルにちらりと目をやって、トーンは続ける。
「実は、私たちは普通のサンタじゃないんです。子どもたちの欲しがっているプレゼントを配るサンタではなく、ものでは心が満たされない人のためのサンタ……ですから、ものを欲しがっている妹さんではなく、あなたこそが今年の私たちのお客様にふさわしいんですよ」
「オレが、もの以外の何かを欲しがってるってこと……?」
少し考えてみたけれど結局わからなかったらしく、大地はぷるぷると頭を振った。
「わからないなら、それでいいんです。きっとニコルの袋はあなたの望みをわかってくれますから」
しばらく考えて、大地は頷いた。
「うん、じゃあ、せっかくだしもらっておくよ。でも、オレの後には小花にもプレゼントをあげてくれよな」
「残念だけど、それは無理だよ」
穏やかなニコルの声が割り込んだ。袋の中から小さな包みを取り出して、ニコルは大地のベッドへ歩み寄る。
「僕のお客さんは1年に1人だけ。そういう決まりなんだ」
「じゃ、じゃあ……」
「でも、ね」
いたずらっ子のような顔でニコルは大地の言葉をさえぎった。
「僕がプレゼントをあげる人は1人だけど、僕のプレゼントは受け取った人の使い方次第でたくさんの人に分けることができる。そうすることで、君と周りの人たちが倖せになっていくんだ」
「倖せ……?」
「そう。そして、君が倖せになったら、少しだけその気持ちを僕らに分けてほしいんだ。その倖せを元に、来年のお客さんのプレゼントが作られるから」
「今年のあなたへのプレゼントも、去年のお客様の倖せを元に作られたものなんですよ」
「オレへの、プレゼントも……」
しばらく考えていた大地が、こくりと頷いた。
「わかった。オレが倖せになったら、それを分けてやるよ。あんたからもらったプレゼントを小花と分ければいいんだろ?」
「そうだよ」
にっこり笑って、ニコルは両手に収まるほどの小さな包みを差し出した。深い葉っぱ色の包装紙。薄い金色のリボンは、赤い縁取りがされている。受け取った大地は、結び目に留められたひいらぎの飾りを抜き取った。その途端にリボンが勝手にほどけ、包装紙が開いていく。
「な、なんだ!?」
飾りをすっかり外してしまった小さな箱は、金色の光をこぼしながら蓋を開いた。まぶしくて大地は思わず目を閉じる。
ふっと光がやんで、おそるおそる大地は目を開いた。いつも通りの自分の部屋が見える。何も変わった様子はない。
「あ、あれ?」
ニコルとトーンが消えていた。あわてて見回しても、姿どころか気配もない。
「な……なんだったんだ?もしかして、夢?」
呟いて、ふと落とした大地の目に、なにやら見慣れないものが入った。
「これは……」
見つけたのは、小さなサンタ姿のぬいぐるみだった。大地の枕もとにちょこんと座っている。
「夢じゃ、ない?」
思わずぬいぐるみを手に取った大地の耳に、ニコルの声が聞こえてきた。
『君にほんの少しの勇気と、優しさをあげるよ。これからも妹さんを大事にしてあげてね。君は今のままでも十分に、いいお兄ちゃんなんだから』
大地はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。よく見るとニコルに似ていなくもない、ひげのないサンタ姿の男の子。
『僕らはずっと傍で見守ってるよ。ハッピークリスマス、大地』
それから、いくら待ってもニコルの声は聞こえなかった。大地はいつまでも、ぬいぐるみを抱きしめたまま部屋のドアを見つめていた。
「小花!!」
クリスマスの朝、大地は一番に真向かいにある妹の部屋に飛んでいった。昨日の晩はいつのまにか眠ってしまっていたけれど、目がさめた後もサンタのぬいぐるみはちゃんと大地の手の中にあった。
「小花! 起きろよ!! にいちゃんがすごいもの見せてやるぜ!!」
部屋の中からは、小花が起きた気配がする。けれどまだ昨日のことを気にしているのか、大地の声に反応はない。
「聞いてくれよ小花! にいちゃんな、本物のサンタに会ったんだ!」
ことり、と部屋の中から物音がした。何秒かの沈黙の後、ドアが内側から細く開かれる。
「……サンタさんに?」
「……うん」
小花は昨日着ていた服のままだった。そのまま寝てしまったのだろう、買ったばかりの服があちこちしわだらけになってしまっている。そんな小花の目の前に、大地はずっと握りしめていたサンタのぬいぐるみを差し出した。
「ほら、これが本物のサンタからもらったプレゼント」
おそるおそる小花はぬいぐるみへ手を伸ばした。大地の手からぬいぐるみを取って、小花はまじまじとその顔を見つめる。
「かわいい……けど、おひげがないよ」
「ああ、オレが会った本物のサンタもひげはなかったよ」
「おじいちゃんでもないし……」
「うん、隣のお兄ちゃんと同じくらいの歳だったよ。それでな、なんと日本語をしゃべるトナカイを連れてるんだ」
「うそぉ」
「ホントだって! オレもびっくりしたんだけどな……」
「こら大地! 朝から騒がないの!」
おかあさんのお叱りが台所から飛んできた。軽く首をすくめて、大地は小花の頭にぽんと手を乗せた。
「んじゃ、これ以上怒られないうちに着替えて朝メシにしような。その後でサンタの話をしてやるよ」
「うん!」
部屋に戻りかけて、大地は小花を振り返った。
「そうだ。昨日はごめんな。サンタはやっぱりいたからな」
「そうでしょ? あーあ、あたしもあいたかったなぁ」
「いい子にしてれば会えるんじゃないか? オレはいい子だったから来てくれたんだよ」
「えー!!?」
小花のブーイングを聞きながら、大地は自分の部屋のドアを開けた。
「ねーおにいちゃん、このぬいぐるみ、もらっていい?」
「それはダメだ。オレがサンタに会ったっていう大事な証拠だからな」
でも、と言って、大地は言葉を切った。
「でも、オレたち共同のぬいぐるみにするならいいよ。オレの部屋に置いとくのも何だし、おまえが預かっててくれよ」
「うん! ありがとう、おにいちゃん!」
笑って、大地はドアを閉じた。自然に小花と仲直りできたことがなんだか嬉しかった。
「これで、いいんだよな?」
昨夜、ニコルとトーンがいた辺りに向かって問い掛けてみる。
「いい子にしていれば、きっとまた会えるよな。そーいやオレ、ありがとうも言ってないんだし」
「大地、小花! 起きてるなら早く来い! おかあさんが怒ってるぞ!」
少しだけしんみりした部屋の空気を、容赦なくおとうさんの声がぶち壊した。
「分かったよ! 今行くってば!!!」
あわてて着替えをはじめた大地の横顔に、金色の朝日が降りかかった。
「それから、小花は部屋から出てこないんだ。オレが呼んでも、おかあさんが呼んでも、返事もしない」
「そうだったんだ。だから本物のサンタの僕たちに、妹さんにプレゼントを持っていってって頼んだんだね」
「うん」
大地はちらりとニコルに目をやって、うつむいてしまった。
「だってオレは……サンタなんていないって、あいつに言っちゃったんだ。本物のサンタの前でこんなこと言うのも変だけどさ、だから、オレよりサンタを信じてるあいつのところに行ってくれよ」
「そうだねぇ……でも、やっぱり僕の今年のお客さんは、君で間違いないようだから」
にっこり笑って、ニコルは大地の頭にぽん、と手を置いた。
「僕の望遠鏡に見える人はね、この世界で一番僕のプレゼントを必要としている人なんだよ。僕のプレゼントは、ちょっと変わってるからね」
「どういうことだよ?」
微笑だけを残して、ニコルは橇へと向いてしまった。
「大地さん、あなたの望みは何ですか?」
代わりに進み出たトーンが問い掛ける。
「望み? そんなの、わかんないよ」
「そうですか?」
橇に積み込んだ大きな白い袋を探っているニコルにちらりと目をやって、トーンは続ける。
「実は、私たちは普通のサンタじゃないんです。子どもたちの欲しがっているプレゼントを配るサンタではなく、ものでは心が満たされない人のためのサンタ……ですから、ものを欲しがっている妹さんではなく、あなたこそが今年の私たちのお客様にふさわしいんですよ」
「オレが、もの以外の何かを欲しがってるってこと……?」
少し考えてみたけれど結局わからなかったらしく、大地はぷるぷると頭を振った。
「わからないなら、それでいいんです。きっとニコルの袋はあなたの望みをわかってくれますから」
しばらく考えて、大地は頷いた。
「うん、じゃあ、せっかくだしもらっておくよ。でも、オレの後には小花にもプレゼントをあげてくれよな」
「残念だけど、それは無理だよ」
穏やかなニコルの声が割り込んだ。袋の中から小さな包みを取り出して、ニコルは大地のベッドへ歩み寄る。
「僕のお客さんは1年に1人だけ。そういう決まりなんだ」
「じゃ、じゃあ……」
「でも、ね」
いたずらっ子のような顔でニコルは大地の言葉をさえぎった。
「僕がプレゼントをあげる人は1人だけど、僕のプレゼントは受け取った人の使い方次第でたくさんの人に分けることができる。そうすることで、君と周りの人たちが倖せになっていくんだ」
「倖せ……?」
「そう。そして、君が倖せになったら、少しだけその気持ちを僕らに分けてほしいんだ。その倖せを元に、来年のお客さんのプレゼントが作られるから」
「今年のあなたへのプレゼントも、去年のお客様の倖せを元に作られたものなんですよ」
「オレへの、プレゼントも……」
しばらく考えていた大地が、こくりと頷いた。
「わかった。オレが倖せになったら、それを分けてやるよ。あんたからもらったプレゼントを小花と分ければいいんだろ?」
「そうだよ」
にっこり笑って、ニコルは両手に収まるほどの小さな包みを差し出した。深い葉っぱ色の包装紙。薄い金色のリボンは、赤い縁取りがされている。受け取った大地は、結び目に留められたひいらぎの飾りを抜き取った。その途端にリボンが勝手にほどけ、包装紙が開いていく。
「な、なんだ!?」
飾りをすっかり外してしまった小さな箱は、金色の光をこぼしながら蓋を開いた。まぶしくて大地は思わず目を閉じる。
ふっと光がやんで、おそるおそる大地は目を開いた。いつも通りの自分の部屋が見える。何も変わった様子はない。
「あ、あれ?」
ニコルとトーンが消えていた。あわてて見回しても、姿どころか気配もない。
「な……なんだったんだ?もしかして、夢?」
呟いて、ふと落とした大地の目に、なにやら見慣れないものが入った。
「これは……」
見つけたのは、小さなサンタ姿のぬいぐるみだった。大地の枕もとにちょこんと座っている。
「夢じゃ、ない?」
思わずぬいぐるみを手に取った大地の耳に、ニコルの声が聞こえてきた。
『君にほんの少しの勇気と、優しさをあげるよ。これからも妹さんを大事にしてあげてね。君は今のままでも十分に、いいお兄ちゃんなんだから』
大地はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。よく見るとニコルに似ていなくもない、ひげのないサンタ姿の男の子。
『僕らはずっと傍で見守ってるよ。ハッピークリスマス、大地』
それから、いくら待ってもニコルの声は聞こえなかった。大地はいつまでも、ぬいぐるみを抱きしめたまま部屋のドアを見つめていた。
「小花!!」
クリスマスの朝、大地は一番に真向かいにある妹の部屋に飛んでいった。昨日の晩はいつのまにか眠ってしまっていたけれど、目がさめた後もサンタのぬいぐるみはちゃんと大地の手の中にあった。
「小花! 起きろよ!! にいちゃんがすごいもの見せてやるぜ!!」
部屋の中からは、小花が起きた気配がする。けれどまだ昨日のことを気にしているのか、大地の声に反応はない。
「聞いてくれよ小花! にいちゃんな、本物のサンタに会ったんだ!」
ことり、と部屋の中から物音がした。何秒かの沈黙の後、ドアが内側から細く開かれる。
「……サンタさんに?」
「……うん」
小花は昨日着ていた服のままだった。そのまま寝てしまったのだろう、買ったばかりの服があちこちしわだらけになってしまっている。そんな小花の目の前に、大地はずっと握りしめていたサンタのぬいぐるみを差し出した。
「ほら、これが本物のサンタからもらったプレゼント」
おそるおそる小花はぬいぐるみへ手を伸ばした。大地の手からぬいぐるみを取って、小花はまじまじとその顔を見つめる。
「かわいい……けど、おひげがないよ」
「ああ、オレが会った本物のサンタもひげはなかったよ」
「おじいちゃんでもないし……」
「うん、隣のお兄ちゃんと同じくらいの歳だったよ。それでな、なんと日本語をしゃべるトナカイを連れてるんだ」
「うそぉ」
「ホントだって! オレもびっくりしたんだけどな……」
「こら大地! 朝から騒がないの!」
おかあさんのお叱りが台所から飛んできた。軽く首をすくめて、大地は小花の頭にぽんと手を乗せた。
「んじゃ、これ以上怒られないうちに着替えて朝メシにしような。その後でサンタの話をしてやるよ」
「うん!」
部屋に戻りかけて、大地は小花を振り返った。
「そうだ。昨日はごめんな。サンタはやっぱりいたからな」
「そうでしょ? あーあ、あたしもあいたかったなぁ」
「いい子にしてれば会えるんじゃないか? オレはいい子だったから来てくれたんだよ」
「えー!!?」
小花のブーイングを聞きながら、大地は自分の部屋のドアを開けた。
「ねーおにいちゃん、このぬいぐるみ、もらっていい?」
「それはダメだ。オレがサンタに会ったっていう大事な証拠だからな」
でも、と言って、大地は言葉を切った。
「でも、オレたち共同のぬいぐるみにするならいいよ。オレの部屋に置いとくのも何だし、おまえが預かっててくれよ」
「うん! ありがとう、おにいちゃん!」
笑って、大地はドアを閉じた。自然に小花と仲直りできたことがなんだか嬉しかった。
「これで、いいんだよな?」
昨夜、ニコルとトーンがいた辺りに向かって問い掛けてみる。
「いい子にしていれば、きっとまた会えるよな。そーいやオレ、ありがとうも言ってないんだし」
「大地、小花! 起きてるなら早く来い! おかあさんが怒ってるぞ!」
少しだけしんみりした部屋の空気を、容赦なくおとうさんの声がぶち壊した。
「分かったよ! 今行くってば!!!」
あわてて着替えをはじめた大地の横顔に、金色の朝日が降りかかった。
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