書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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自分のぬくもりにすっぽり包まれた大地は、冷えた心を抱えたまま寝返りを打った。全身にのしかかるふとんのように重苦しい思い。それを少しでも吐き出したくて、小さな溜め息をつく。
明日は神さまが生まれた日だという。神さまの誕生日だから、たくさんの国でお祝いをする。それがクリスマスなんだよ、と大地のおとうさんは教えてくれた。
「神さま……」
神さまが生まれた特別な日。その日に心からお祈りをすれば、神さまはきっとその願いを叶えてくれる。願いを叶えるために子どもたちの家を1軒ずつ回ってくれるのがセント・ニコライ、みんなにはサンタクロースと呼ばれている人なのよ。そう言ったのは、大地のおかあさんだった。
「神さま、セント・ニコライさま」
ぎゅっと目を閉じて、大地はきつく両手を握り合わせる。
「オレの分のプレゼントはいりません。だけどお願いします、妹には、小花には、いい贈り物をあげてやってください」
「へぇ、感心だね。自分のじゃなく妹さんのプレゼントが望みだなんて」
いきなり間近からかけられた声に、大地は驚いて跳ね起きた。
「だっ、誰だ!?」
闇に慣れた大地の目に、ぼんやりと温かそうな光が見えた。いつの間に現れたのか、大地のベッドのすぐ傍にあるその光の中には、トナカイと橇、そして橇を降りようとじたばたしているサンタクロースが1人、見えた。
大地が呆然としている間に、サンタクロースはなんとか橇から降りることに成功したらしい。ちょっと曲がった帽子を直しながら、まだ若いサンタは(大地の目には中学生か高校生くらいに見えた)へろっとした笑みを浮かべた。
「はじめまして、今年のお客さん。僕はサンタのニコル、こっちはトナカイのトーンだよ。よろしくね」
「おっ……おまえがサンタクロース?」
大地は目を白黒させながらニコルとトーンを見比べた。
「で、でも、ひげもないし、じいちゃんでもないよ?」
「うん。僕はサンタになってまだ10年くらいしか経ってないから。でも僕のお師匠さんは白いひげがもくもくした優しいおじいちゃんだったよ」
ねえ、と同意を求められて、トーンがこくりと頷く。
「ええ。ニコラウスさまは本当に素晴らしいサンタクロースでしたよ」
まん丸になった大地の目がトーンに向けられる。
「トナカイなのにしゃべれるのか!?」
「ええ。私はサンタクロースのトナカイですから」
何かに納得したように、大地は何度も頷いた。
「そーか、サンタが飼ってるトナカイは日本語もしゃべれる不思議トナカイなんだな。うん、それならおまえが本物のサンタだって信じてやってもいいぞ。こんな不思議なことができるのは本物のサンタだけだろうしな」
「うん。君が信じてくれて嬉しいよ。ありがとう」
「で・も!」
ニコルの笑顔を、大地はキッとにらみつけた。
「なんでオレのところにサンタが来たりするんだよ。オレはプレゼントなんかいらないって言っただろ。オレなんかより小花のところに行ってやれよな。あいつ、きっと大喜びするからさ」
ニコルとトーンは顔を見合わせる。
「なぜ君は自分の分のプレゼントをいらないなんて言ったりするの?」
「それは……」
気まずげに大地はニコルたちから目を逸らした。
「もし良かったら、わけを聞かせてくれませんか?わけを知らないと、私たちもプレゼントをあなたに渡すべきなのか、それとも妹さんに渡すべきなのか、わからないですから」
そっぽを向いたままの大地に、トーンがそっと歩み寄る。
「そういえば、あなたのお名前をまだ聞いていませんでしたね」
「……大地」
「大地さんですね。妹さんは……小花さんでいいんですね?」
頷く大地を見て、トーンの瞳が微笑む。
「小さい花、ですか。かわいいお名前ですね。妹さんはかわいいですか?」
「全然!!」
ぶんぶんと首を振って、大地は口をとがらせる。
「あんなやつ、泣き虫だしうるさいし、何かあるとすぐにおかあさんに言いつけるし、全然かわいくなんかないよ」
でも、と大地は言葉を続ける。
「オレはにいちゃんだから、まだ小さいあいつを守ってやらなきゃって思うんだ。でも、いつもオレはあいつを泣かして……今日だって」
ぎゅっとふとんを握りしめて、大地は話しはじめた。
テーブルの上には、オードブルとケーキが少しずつ残っていた。集まった子どもたちがもう食べようとしないのを見てとって、手伝いのおかあさんたちがテーブルを片付け始める。
「みんな、おなかいっぱいになったかな?」
みんなが集まった集会室。前の方にある壇の上で、大地のおかあさんが声を張り上げている。
後ろの黒板には『ひいらぎ町子供会 クリスマスパーティ』の文字。いつもは殺風景な集会室も、今日は有志のおかあさんたちの手できれいに飾られている。
学年順に並べられた席についている子どもたちが注目した頃を見計らって、大地のおかあさんは再び口を開いた。
「それでは、これから本日のメインイベントのプレゼント交換をしたいと思います!」
とたんに上がる子どもたちの大歓声。壇の上に用意してあった大きな箱を前に押し出して、大地のおかあさんは続けた。
「会の最初でみんなから預かったプレゼントは、全部この中です。1年生から順番にひとつずつ取っていってね。ただし、あとでみんな一緒に開けるから、まだ中は見ちゃだめよ」
がやがやと子どもたちは学年順に並びはじめた。大地も3年生のグループの中に入って、順番を待っていた。1年生の先頭には小花がいる。たまたま大地が目を向けると、仲良しの友達と一緒に、わくわくした顔で差し出された箱を探って、包みを1個取り出すところだった。
「あれ?」
小花が大事そうに抱えた箱の包装紙に、大地は見覚えがあった。
「あれってオレが持ってきたプレゼントじゃん……ったく、何やってんるんだよ」
「おい大地、どうしたんだ?前、進んでるぞ」
言われて、大地はあわてて前へ詰めた。
「わりぃ、ありがと」
「おう。ところでさ、こないだ借りたゲームなんだけど……」
大好きなゲームの話につい夢中になり、プレゼントをてきとうに選んで席に戻ってからも大地はずっと友達としゃべっていた。その頃にはもう小花のことなど忘れている。
「お待たせしました! プレゼントが行き渡りましたので、もう開けてもいいですよ」
おかあさんの声に、みんなは待ってましたと包装に手を掛ける。リボンがほどける音、紙ががさがさいう音、時々びりっと何かが破ける音がしばらくの間集会室を満たす。
「やった、オレのは大当たりだ」
包みから出てきた車のおもちゃに、大地は歓声を上げた。
「大地は乗り物が好きだもんな。見ろよ、オレもいいのがあたったぜ」
友達とプレゼントの見せっこをしていた大地の耳に、いきなり甲高い泣き声が飛び込んできた。思わず振り返った大地の目に、プレゼントを抱えたまま何事かと注目する子どもたちの姿が入る。
「なあ、あの声……泣いてるのって小花じゃないのか?」
「う、うん……ちょっと見てくるよ」
みんなの視線が集まる先には、やっぱり小花がいた。かがみこんだおかあさんにしがみついて大泣きしている。そばには飛行機のおもちゃが落ちていて、さっきから一緒だった友達がおろおろしている。
「どうしたんだ、小花」
泣くばかりの小花の代わりに、おかあさんが顔を上げた。
「それが……どうもプレゼントが気に入らなかったらしいの」
「ひこうきなんてやー!あたしもミキちゃんみたいのがいいー!!」
わめく小花の指した先には、友達が大事そうに抱えた塗り絵があった。
「わがまま言わないの。ミキちゃんだって困ってるじゃない」
「そうだぞ小花。がまんしろよ」
大体オレのプレゼントをわざわざ選ぶおまえが悪いんだろ。オレのプレゼント、おまえも見たじゃないか。
大地の内心などお構いなしに、小花はますます派手に泣き声を上げる。
「やー! あたしもぬりえがいいー!!!」
「……仕方ないわねえ」
わらわらと周りに集まりだした子どもたちを見回して、おかあさんは溜め息を吐いた。
「大地、とりあえずこの子を家に帰してくれる? このままじゃ他の子たちまで騒ぎ出しちゃうわ」
お願いね、というおかあさんの言葉には逆らえず、大地はしぶしぶ小花の手を取って集会室を出て行った。
「ほら、もう泣くなよ。みっともないだろ」
家に帰るまでの道で、立ち止まった大地は涙でぐちゃぐちゃの小花の顔をふいてやった。
「うえっ、だって、あたし、いい子にしてたのに」
きれいにしてもすぐに汚れてしまう妹の顔に、ついに大地は諦めた。再び小花の手を取って家へと歩き出す。短い冬の日がもう傾いて、ななめから大地たちを照らしている。
「ピーマンも、のこさないでたべたもん。ニンジンはちょっとのこしちゃったけど……でもミルクはぜんぶのんだんだよ」
「ふーん」
「サンタさんは、いい子にしてたらほしいものをくれるって、おかあさんがいってたもん」
「いつまでも泣いてる小花は、いい子じゃないと思うけどな」
「ひぐっ、おにいちゃんの、いじわる」
一向に泣き止む気配のない小花にげんなりしながら、大地は言った。
「だいたい、さっきのは子供会のプレゼント交換だろ。サンタなんか関係ないよ」
「ちがうもん、ちがうもん」
自分の袖で顔をぬぐいながら、小花は口をとがらせる。
「きっとおにいちゃんがいじわるだからだ。おにいちゃんがいじわるばかりするから、あたしまでサンタさんにわるい子だっておもわれちゃったんだ」
「何だよそれ!?」
思わずかっとして、大地は小花の手を振り切った。
「だいたい、あのプレゼントだっておまえが好きで選んだんだろ!」
せっかくオレが買ってきたのに。
何とかそのセリフを飲み込んだ大地に、小さな妹は振り払われた手を見てまた泣き出した。
「ちがうもん。サンタさんがおにいちゃんに——」
「サンタなんかいない!!」
小花の泣き声がふいに途切れた。
「な……何言ってるのおにいちゃん、サンタさんは……」
「サンタなんかいるもんか。いい加減にしろよ。さっきのは自分たちで持ち寄ったプレゼントを交換しただけだし、クリスマスの朝のプレゼントだって――」
はっと大地は言葉を切った。小花の目には涙がいっぱいにたまっている。でもそれ以上に驚いていて、悲しそうで、そのせいで泣くのを忘れてしまったように凍りついている。思わずひるんでしまった大地の前で、小花はうつむいてしまった。
「やっぱり……おにいちゃんは、いじわるだ」
もういいよ、とだけ言って、小花は家へと走っていってしまった。あわてて伸ばした大地の指に、ひとしずくの涙がかすった。
明日は神さまが生まれた日だという。神さまの誕生日だから、たくさんの国でお祝いをする。それがクリスマスなんだよ、と大地のおとうさんは教えてくれた。
「神さま……」
神さまが生まれた特別な日。その日に心からお祈りをすれば、神さまはきっとその願いを叶えてくれる。願いを叶えるために子どもたちの家を1軒ずつ回ってくれるのがセント・ニコライ、みんなにはサンタクロースと呼ばれている人なのよ。そう言ったのは、大地のおかあさんだった。
「神さま、セント・ニコライさま」
ぎゅっと目を閉じて、大地はきつく両手を握り合わせる。
「オレの分のプレゼントはいりません。だけどお願いします、妹には、小花には、いい贈り物をあげてやってください」
「へぇ、感心だね。自分のじゃなく妹さんのプレゼントが望みだなんて」
いきなり間近からかけられた声に、大地は驚いて跳ね起きた。
「だっ、誰だ!?」
闇に慣れた大地の目に、ぼんやりと温かそうな光が見えた。いつの間に現れたのか、大地のベッドのすぐ傍にあるその光の中には、トナカイと橇、そして橇を降りようとじたばたしているサンタクロースが1人、見えた。
大地が呆然としている間に、サンタクロースはなんとか橇から降りることに成功したらしい。ちょっと曲がった帽子を直しながら、まだ若いサンタは(大地の目には中学生か高校生くらいに見えた)へろっとした笑みを浮かべた。
「はじめまして、今年のお客さん。僕はサンタのニコル、こっちはトナカイのトーンだよ。よろしくね」
「おっ……おまえがサンタクロース?」
大地は目を白黒させながらニコルとトーンを見比べた。
「で、でも、ひげもないし、じいちゃんでもないよ?」
「うん。僕はサンタになってまだ10年くらいしか経ってないから。でも僕のお師匠さんは白いひげがもくもくした優しいおじいちゃんだったよ」
ねえ、と同意を求められて、トーンがこくりと頷く。
「ええ。ニコラウスさまは本当に素晴らしいサンタクロースでしたよ」
まん丸になった大地の目がトーンに向けられる。
「トナカイなのにしゃべれるのか!?」
「ええ。私はサンタクロースのトナカイですから」
何かに納得したように、大地は何度も頷いた。
「そーか、サンタが飼ってるトナカイは日本語もしゃべれる不思議トナカイなんだな。うん、それならおまえが本物のサンタだって信じてやってもいいぞ。こんな不思議なことができるのは本物のサンタだけだろうしな」
「うん。君が信じてくれて嬉しいよ。ありがとう」
「で・も!」
ニコルの笑顔を、大地はキッとにらみつけた。
「なんでオレのところにサンタが来たりするんだよ。オレはプレゼントなんかいらないって言っただろ。オレなんかより小花のところに行ってやれよな。あいつ、きっと大喜びするからさ」
ニコルとトーンは顔を見合わせる。
「なぜ君は自分の分のプレゼントをいらないなんて言ったりするの?」
「それは……」
気まずげに大地はニコルたちから目を逸らした。
「もし良かったら、わけを聞かせてくれませんか?わけを知らないと、私たちもプレゼントをあなたに渡すべきなのか、それとも妹さんに渡すべきなのか、わからないですから」
そっぽを向いたままの大地に、トーンがそっと歩み寄る。
「そういえば、あなたのお名前をまだ聞いていませんでしたね」
「……大地」
「大地さんですね。妹さんは……小花さんでいいんですね?」
頷く大地を見て、トーンの瞳が微笑む。
「小さい花、ですか。かわいいお名前ですね。妹さんはかわいいですか?」
「全然!!」
ぶんぶんと首を振って、大地は口をとがらせる。
「あんなやつ、泣き虫だしうるさいし、何かあるとすぐにおかあさんに言いつけるし、全然かわいくなんかないよ」
でも、と大地は言葉を続ける。
「オレはにいちゃんだから、まだ小さいあいつを守ってやらなきゃって思うんだ。でも、いつもオレはあいつを泣かして……今日だって」
ぎゅっとふとんを握りしめて、大地は話しはじめた。
テーブルの上には、オードブルとケーキが少しずつ残っていた。集まった子どもたちがもう食べようとしないのを見てとって、手伝いのおかあさんたちがテーブルを片付け始める。
「みんな、おなかいっぱいになったかな?」
みんなが集まった集会室。前の方にある壇の上で、大地のおかあさんが声を張り上げている。
後ろの黒板には『ひいらぎ町子供会 クリスマスパーティ』の文字。いつもは殺風景な集会室も、今日は有志のおかあさんたちの手できれいに飾られている。
学年順に並べられた席についている子どもたちが注目した頃を見計らって、大地のおかあさんは再び口を開いた。
「それでは、これから本日のメインイベントのプレゼント交換をしたいと思います!」
とたんに上がる子どもたちの大歓声。壇の上に用意してあった大きな箱を前に押し出して、大地のおかあさんは続けた。
「会の最初でみんなから預かったプレゼントは、全部この中です。1年生から順番にひとつずつ取っていってね。ただし、あとでみんな一緒に開けるから、まだ中は見ちゃだめよ」
がやがやと子どもたちは学年順に並びはじめた。大地も3年生のグループの中に入って、順番を待っていた。1年生の先頭には小花がいる。たまたま大地が目を向けると、仲良しの友達と一緒に、わくわくした顔で差し出された箱を探って、包みを1個取り出すところだった。
「あれ?」
小花が大事そうに抱えた箱の包装紙に、大地は見覚えがあった。
「あれってオレが持ってきたプレゼントじゃん……ったく、何やってんるんだよ」
「おい大地、どうしたんだ?前、進んでるぞ」
言われて、大地はあわてて前へ詰めた。
「わりぃ、ありがと」
「おう。ところでさ、こないだ借りたゲームなんだけど……」
大好きなゲームの話につい夢中になり、プレゼントをてきとうに選んで席に戻ってからも大地はずっと友達としゃべっていた。その頃にはもう小花のことなど忘れている。
「お待たせしました! プレゼントが行き渡りましたので、もう開けてもいいですよ」
おかあさんの声に、みんなは待ってましたと包装に手を掛ける。リボンがほどける音、紙ががさがさいう音、時々びりっと何かが破ける音がしばらくの間集会室を満たす。
「やった、オレのは大当たりだ」
包みから出てきた車のおもちゃに、大地は歓声を上げた。
「大地は乗り物が好きだもんな。見ろよ、オレもいいのがあたったぜ」
友達とプレゼントの見せっこをしていた大地の耳に、いきなり甲高い泣き声が飛び込んできた。思わず振り返った大地の目に、プレゼントを抱えたまま何事かと注目する子どもたちの姿が入る。
「なあ、あの声……泣いてるのって小花じゃないのか?」
「う、うん……ちょっと見てくるよ」
みんなの視線が集まる先には、やっぱり小花がいた。かがみこんだおかあさんにしがみついて大泣きしている。そばには飛行機のおもちゃが落ちていて、さっきから一緒だった友達がおろおろしている。
「どうしたんだ、小花」
泣くばかりの小花の代わりに、おかあさんが顔を上げた。
「それが……どうもプレゼントが気に入らなかったらしいの」
「ひこうきなんてやー!あたしもミキちゃんみたいのがいいー!!」
わめく小花の指した先には、友達が大事そうに抱えた塗り絵があった。
「わがまま言わないの。ミキちゃんだって困ってるじゃない」
「そうだぞ小花。がまんしろよ」
大体オレのプレゼントをわざわざ選ぶおまえが悪いんだろ。オレのプレゼント、おまえも見たじゃないか。
大地の内心などお構いなしに、小花はますます派手に泣き声を上げる。
「やー! あたしもぬりえがいいー!!!」
「……仕方ないわねえ」
わらわらと周りに集まりだした子どもたちを見回して、おかあさんは溜め息を吐いた。
「大地、とりあえずこの子を家に帰してくれる? このままじゃ他の子たちまで騒ぎ出しちゃうわ」
お願いね、というおかあさんの言葉には逆らえず、大地はしぶしぶ小花の手を取って集会室を出て行った。
「ほら、もう泣くなよ。みっともないだろ」
家に帰るまでの道で、立ち止まった大地は涙でぐちゃぐちゃの小花の顔をふいてやった。
「うえっ、だって、あたし、いい子にしてたのに」
きれいにしてもすぐに汚れてしまう妹の顔に、ついに大地は諦めた。再び小花の手を取って家へと歩き出す。短い冬の日がもう傾いて、ななめから大地たちを照らしている。
「ピーマンも、のこさないでたべたもん。ニンジンはちょっとのこしちゃったけど……でもミルクはぜんぶのんだんだよ」
「ふーん」
「サンタさんは、いい子にしてたらほしいものをくれるって、おかあさんがいってたもん」
「いつまでも泣いてる小花は、いい子じゃないと思うけどな」
「ひぐっ、おにいちゃんの、いじわる」
一向に泣き止む気配のない小花にげんなりしながら、大地は言った。
「だいたい、さっきのは子供会のプレゼント交換だろ。サンタなんか関係ないよ」
「ちがうもん、ちがうもん」
自分の袖で顔をぬぐいながら、小花は口をとがらせる。
「きっとおにいちゃんがいじわるだからだ。おにいちゃんがいじわるばかりするから、あたしまでサンタさんにわるい子だっておもわれちゃったんだ」
「何だよそれ!?」
思わずかっとして、大地は小花の手を振り切った。
「だいたい、あのプレゼントだっておまえが好きで選んだんだろ!」
せっかくオレが買ってきたのに。
何とかそのセリフを飲み込んだ大地に、小さな妹は振り払われた手を見てまた泣き出した。
「ちがうもん。サンタさんがおにいちゃんに——」
「サンタなんかいない!!」
小花の泣き声がふいに途切れた。
「な……何言ってるのおにいちゃん、サンタさんは……」
「サンタなんかいるもんか。いい加減にしろよ。さっきのは自分たちで持ち寄ったプレゼントを交換しただけだし、クリスマスの朝のプレゼントだって――」
はっと大地は言葉を切った。小花の目には涙がいっぱいにたまっている。でもそれ以上に驚いていて、悲しそうで、そのせいで泣くのを忘れてしまったように凍りついている。思わずひるんでしまった大地の前で、小花はうつむいてしまった。
「やっぱり……おにいちゃんは、いじわるだ」
もういいよ、とだけ言って、小花は家へと走っていってしまった。あわてて伸ばした大地の指に、ひとしずくの涙がかすった。
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