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書き散らした小説置き場。剣と魔法のファンタジー他いろいろ。
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 私は、生きることに飽いてしまった。

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 ——ふふ、そう不可思議な表情をするな。
 私は君が想像も出来ないだろう長い年月を生きてきた。己の年齢が幾つなのか……それすら最早覚えてはおらぬ。
 確かに、私の外見は君との歳の差など幾らもないように見えるだろう。ともすると、君より私のほうが若く見えるのやも知れぬ。だが私は確かに悠久の時をこの姿で生きてきた。どういうことか?何のことはない、俗に言う不老不死というものだよ。私は永遠に歳を取ることはない。病気にも罹らないし、怪我をしてもすぐに治ってしまうから死ぬこともない。
 なぜ、そのような体になったのか、か?
 わからぬ。知ろうとも思わぬ。今更そのようなことを問うてどうなるというのだ?その答えを知ったとて、想い出の中のあの時は最早戻らぬ。
 君には信じられぬやも知れぬが、私とてかつては君と同じくごく普通の人間だった。しかしある時を境に私の体はこのような呪わしいものに変わってしまった。最初はそれと気付かず、人の世で人に交じって暮らしていた。私にも家族はあった。友もいた。彼らが傍にいれば、それだけで私は幸せだった。
 だが彼らもやがて老い、死を迎える。一人、また一人と見送る度に私は己の呪わしさを見せつけられた。唯一人若き頃の面影を留め続けた私に、彼らは何も言わなかった。しかし時を経るごとに彼らは少しずつ私と距離を置くようになった。
 彼らを責めるつもりはない。彼らの心情はよく解るつもりだからな。むしろ私は彼らに感謝しているのだ。人でありながら人の枠を外れた私のような者を、彼らはついに拒絶することはなかったのだからな。
 しかしそれも、彼らの最後の一人が逝くまでだった。人々は私を拒み、忌むようになった。それを理解した私は故郷を去り、遠く離れた別の地に移り住んだ。大きな街だった。縁の者を亡くしつくした私は、今思えばやはり寂しかったのだろうな。人が大勢いることに安心したことを今でも覚えている。新たな友人はすぐに出来た。再び私に幸せな日々が訪れた。
 だが——やがてそこでも居場所をなくし、立ち去らざるをえなくなった。やはり人の世で生きるには私は異端すぎたのだ。
 それから私は一つ処に留まることをやめた。人恋しいのは変わらなかったから、世界中のあらゆる街を旅して過ごした。流れ者として、人と深い関わりを結ばぬ生活は楽だった。いつも新しい知人に囲まれ、別れ、また新たな知人を得る。それを繰り返しながら、幾年も過ごした。世界中を見て回り、覚え切れないほど多くの街を巡った。
 そんな日々の中で、偶然通りかかった廃墟があった。どこか懐かしい感じがして、私は足を止めた。丁度夕暮れも迫っていたし、連れもいなかったので、その夜はそこで過ごすことにした。一夜の夜露を凌ぐ場所を求めて廃墟を彷徨っていた私は、一軒の家を見つけた。屋根は崩れ落ち、壁には大きな穴が開いたその家を見た瞬間、私の心臓は締めつけられた。引き込まれるように裏庭に回り込んだ私は、そこで幾つかの墓石を見つけた。磨り減った表面を指で辿り、消えかけた墓の主の名を読み取ったその時になって、私はようやく悟った。
 ——ここは、私の故郷だ。
 その時以来、私は人との関わりを一切絶った。私が知り合う人間は皆私より先に滅ぶ。人がつくり出したものもまた然り。置いて逝かれることが我が宿業ならば、別離の哀しみを味わうだけの関わりなど持って何になろう?
 私は人気のない孤城を見つけ、そこに棲みついた。その城が朽ちれば、また次の城を探した。幾度めかの城で、私は以前の住人が遺したのであろう一冊の本を見つけた。それには自然を通さずに生命を造り出す方法が書かれていた。長い長い孤独を過ごし、寂しさなどとうに忘れてしまったと思っていたが——それでも私は、その秘術を使ってしまった。神ならぬ者の手で造り出された生物は醜かったが、それ以上に私にとってはかけがえのない家族だった。幾年かは、寂しさのない日々が続いた。しかしその生物もまた私の手の届かない処へ逝ってしまった。哀しみに耐え切れず、私は再び秘術を用いた。今度はつがいを造り、殖えることができるようにした。これは良い考えだった。親が死んでも、子が育って新たな命を育む。私は私を慕うものたち、私が造った永遠に囲まれ、満足の中で暮らしていた。
 ある日、一匹の子供が城を抜け出した。慌てて捜し回った私たちが見つけたのは、刃物で惨たらしく引き裂かれた子供の死骸だった。殺されたのは恐らく、あの醜い相貌のためだろう。おとなしくて、人を襲うことなどない子供だったからな。怒った親は、私が止めるのも聞かずに人間の村を襲った。結果、人も死んだが親も死んだ。哀しんだ私は、親の死骸を引き取るためにその村に出向いた。襲撃のせいで興奮状態だった村人は、私をも殺そうとした。斬りつけ、射かけ、殴りつける。どんな傷を負っても、この呪われた体はすぐに癒えてしまう。人々は恐怖した。加えて、私が傷つけられたことで私の創造物たちが逆上し、村人たちに襲いかかった。たちまち、辺りは地獄と化した。
 ほとんどの村人はそこで死んだが、ごく僅かな者は逃げ延びた。彼らが私たちの存在を世界中に知らせたため、人々は私たちを目の敵にするようになった。私を『魔王』と呼ぶ者も出てきた。ふふ、懐かしい名だ。大昔、それこそ私がまだ若かった頃にも『魔王』と呼ばれるものがいたのだ。歴史は繰り返す、と言ったところか。
 『魔王』を倒すため、討伐隊が幾つも組まれたらしいが、実際にここまで来た者は過去に一人だけ——君で二人目だが——だった。
 私を攻撃してはいけないと忠告したのだが、彼は私に刃を向けた。次の瞬間、私の子供たちが彼に襲いかかった。私は怒り狂う子供たちをなだめ、彼に近づいた。彼にはまだ息があった。今わの際、彼は私に告げた。
 この世のどこかに、私を殺せる武器があると。
 私は嬉しかった。この長すぎる生を終わらせる方法が存在する…ならば私はそれに賭けてみたいと思った。私はもう生きていくことに疲れていた。人から刃を向けられ、憎まれながら生き続ける、これ以上の地獄があろうか?
 それから私はひたすら待った。私に終わりを与えてくれる人物が現れるのを。私の望みを叶えてくれる者が現れるのを。
 ——そして今、君がここへ来てくれた。その右手の剣、それこそ私が待ち続けた『終わり』なのだろう。
 さあ、私を殺せ。君はそのためにここまで来たのだろう?その足元に倒れたもの——それが私の子供の最後の一匹だ。私と君を阻むものは何もない。
 躊躇うことはない。私をこの呪われた宿業から断ち斬ってくれ。



 ——そう、それでいい。
 この、燃える氷のような刃こそ、ずっと私が望んでいたもの——
 ふふ、私にもまだ人間のような紅い血が流れていたのだな。ああ、折角の白い柄が汚れてしまったな……
 ……? その柄、古い血痕が残っているな……
 何だ? この光景、いつかどこかで……
 ああ、思い出した。
 それは、遠い昔に私が振るった剣だ。
 私はこの手で、かつての『魔王』を斬った。不死の『魔王』を倒すことのできる、この世で唯一のその剣で……
 そうか、そうだったのか。
 この体にかけられし忌まわしき呪い……それは、その剣と表裏一体のものだったのだ。
 呪われた者を斬ることで呪いを解き、代わりに斬った者に不死の呪いをかける……
 ふ……だが、今更悟っても遅すぎる。既に呪いは受け渡された。
 呪いを解く術か?私も捜したが、ついに見つからなかった。捜すことに疲れ果ててしまったのだ。
 しかし君なら、或いは見出せるやも知れぬ。ここまで辿り着いた君ならば……
 どんな時にも望みを捨てないことだ。
 私が望み続けた『終わり』が間もなく訪れるように、君がそれを本気で望むのならば、それが叶う日もきっと来るだろう。
 待つも、動くも、君の自由。
 君には、時間はたっぷりとあるのだから——


<2002年5月11日>



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