いつの間にかうとうとしていたらしい。時計を見ると、もう夜明けが近かった。
気分は最悪だった。目は腫れぼったいし、頭も重い。起き上がってみても、体中がだるかった。溜息を吐いて、少年は部屋の中を見回した。
決して広いわけではない見慣れた部屋。いつになく片付いているのは、昨日の昼間一年に一度の来訪者を迎えるために大掃除をしたからだ。唯一散らかっているのは破り捨てられた手紙の紙くずだけ。ふいと少年はそれから目を逸らした。
しかしそれよりもっと大きなものが目に入り、少年は顔をしかめた。
ベッドサイドに落ちた箱を少年はにらみつけた。角はへこみ、リボンはほどけかかっている。
とても受け取る気にはなれなかった。手にとって開ける気もない。
少年はそれからも目を逸らそうとし——ふと視線を戻した。
リボンと緑の包装紙の間、わずかな隙間から何かがのぞいていた。小さな赤い紙切れ。
手を伸ばし、少年はそれを引き抜いた。手に納まるほどの大きさの封筒だった。何も書かれていていないし、封もされていない。
一瞬ためらった後、少年は封筒を開けた。中に入っていたのは白いカードだった。これも、外側には何も書かれていない。
封筒を開けた時よりほんの少し長く迷って、少年はカードを開いた。
——Mery Christmas. 細い金色の文字が目に飛び込んできた。ただ一言のメッセージ。他には差出人の名前さえ書いていない。
震える手で少年はカードを握りしめた。記憶をたぐってみる。
今まで、プレゼントの贈り主がサンタクロースだと名乗ったことは一度もなかった。
そのことに気づき、少年はうつむいた。昨夜とは違う涙があふれてくる。
プレゼントの主など、本当は誰でもよかったのだ。大切なのはサンタを信じる少年を思いやってくれた気持ちではないか?
昨夜の父の呆然とした顔が蘇る。父のあんな顔を見たのは初めてだった。
乱暴に目をこする。カードを握ったまま、少年はそっと床に落ちたままの包みを拾い上げた。ほどけかかったリボンを払い、包装紙をはがす。少し格好が悪い箱を手で直してから、少年はふたを取った。
収まっていたのは、手袋とマフラーだった。手に取ると、冷え切った指先にほんのりと温かみが戻ってくる。その柔らかな温もりを抱きしめて、少年はしばらくじっとしていた。もう、涙は出なかった。
ふと思いついて、少年はベッドを降りた。腕に手袋とマフラーを抱えたまま机に向かう。
引き出しから取り出したのは便箋だった。椅子に座り、ペンを握る。さらさらと書き付けたそれを少年は丁寧にたたみ、封筒に入れた。
冷えた右手を手袋に入れながら、少年は立ち上がった。
家はまだ眠りの中にあった。
そっと階段を下り、両親の部屋の前に行く。封筒をドアの隙間から差し入れ、少年は玄関に向かった。
押し開けた扉が重くきしんだ。暗い色の扉がどけた後には眩い朝の光。今日はいつになくまぶしく感じられる。
一歩踏み出してようやく少年は気づいた。上からだけではない、下からの光。少年の息より白い雪が、うっすらと周りを覆っていた。
ホワイトクリスマスなど何年ぶりのことだろう。道理で今夜は冷えたはずだ。
少年は駆け出した。首のマフラーが柔らかく揺れる。
家の中から物音が聞こえた。どうやら両親のどちらかを起こしてしまったようだ。
しかし今、少年にとってそんなことはどうでもよかった。まっさらな雪の中に飛び込んでいける機会など滅多にないのだから。
少年の足跡が転々と落ちる。楽しげなリズムに合わせるように、家の中でも騒がしい足音が響いた。
少年はその場にかがみ込んだ。真新しい手袋に、ひとすくいの雪を乗せる。
玄関の扉が派手な音を立てて開いた。少年はゆっくりと立ち上がり、振り返った。目に入ったのは寝ぐせだらけの頭にくまを作った父親の姿。少年は手にした雪を天空へ振りまいた。きらきらと輝く大気の中、少年は笑って便箋に書いた言葉をもう一度父に贈った。
——メリー・クリスマス!
<2001年12月24日>